第十一話:複雑な気持ち
「寒いね…」
少し肌寒さを感じた。いくら初夏とはいえ、半袖で夜を屋上で過ごすのは少し無理がある。防寒用に持ってきたセーターは教室だし…もう、溜息をつくしかなかった。
「そうだな」
佐々木はぶっきらぼうにそう答えた。そんな無関心な答えに少しムッとし、私は分かりやすく彼から顔を思い切り背けた。そんな私を一度横目で見る彼だったが、特に反応はしなかった。
「佐々木の馬鹿っ!さっきまでは私のカラダに興味あったくせに…私自身には興味ないんだ」
少し俯くと、佐々木がゆっくりと私に手を伸ばした。しかしそのスローに近づいてくる物は私に触れる直前で止まり、そのまま地面にストン、と力なく落ちた。
「そんなんじゃねぇよ…」
ボソッと呟いた彼を、体ごと彼に向けてやる。
「じゃあ何?」
しつこいかなぁ、とかいういつもの馬鹿らしい遠慮などはしなかった。少なくとも、私にあんなことをしたんだから、今優位に立っているのは彼ではなく私だと思う。
「怖いんだよ」
その答えにイマイチ理解を示せない私に、佐々木が少し声を上げて言った。
「また、さっきみたいなことしちゃいそうだから。…もうお前に、そんなことしたくねーの。同意なしではな。嫌われたくないし…」
最後の方は声が小さくてあまり聞き取れなかったけど、概ね内容は理解したと思う。
「そっか。考えてくれてんの?ありがと」
力まず、自然に笑ってみた。佐々木は、そんな私を見て悲しそうに微笑んだ。
「あのさ。冗談だと思われてたら本気で傷つくから、もっかいちゃんと言わせて。…俺は、右京が好きだ。勿論、友達としてじゃない。女として見てる」
佐々木が気持ちをストレートに伝えてきたもんだから、私は俯いて何も言えなかった。中学の時は、友情にも恋愛にも興味がなくて、孤立していた。だから、男女共に私の印象は「とっつきにくい」じゃないかと思う。高校に入っても多分同じだった。けれど、佐々木がいたから…。明るく、誰とでもわけ隔てなく接する優しい彼がいたから。私は、少しずつ変わっていったんだと思う。友達という友達は佐々木くらいしかいないが、初めて女の子からも声を掛けてもらったし。中学の時までは分からなかった、友達やクラスメイトと話す楽しさ。恋の幸せさ、楽しさ、苦しさ、悲しさ。それを知った原点は、思い返せば佐々木のお陰だった。
そんな大事な存在の人が、今私に向かって「好きだ」と言ってくれている。拒めない…。何と言えばいいか、分からなかった。ここで私が「ごめん」と言ってしまえば、佐々木は離れていってしまうのかな?気まずくなんて、なりたくないよ。佐々木…。
「右京は、先生が好きなんだよな…?」
ビクッと、肩が上下に揺れる。だって、当たっているから。
何で…?
ナンデ、シッテイルノ?
「お前は……緑川棗のことが…、好き…なんだろ…?」
震えた声で言う佐々木。
そんな佐々木に対して、私はというと。
「…え?は?」
小さな声で、無意識にそんな声が出ていた。いつの間にか肩の力も抜けていて…。だって、私が好きなのはあんなエロ保険医なんかじゃない。私の好きな人は、紛れもない…私達の担任教師である、皆沢叶なんだから。
「あれ?違うの?」
キョトンとする佐々木に、私は躊躇うことなく頷いた。彼は、「よかったぁ~…」と崩れ落ちると、しばらく経ってから私を見上げた。
「じゃあ…好きな人って、…誰…?」
そう言われて、黙ってしまった。言っていいのかな?でも、これって駄目だよね。先生を好きなんて、駄目だよね。私は何と言えばいいか分からなかった。
「あ…えっと…その、」
「俺が代わりになる。…って、ズルい?」
「…え?」
佐々木は座ったままで、私の腕を引っ張った。私は思わずわっ、と声を上げた。そのまま私は、抱き寄せられた。
「俺にしなよ。…代わりでも、いいから」
何も言えず、私はされるがままだった。そして私は佐々木の気持ちに傾いてしまう…。どうすればいいか分からない、このモヤモヤとした感情の正体が分からないまま。私は、この禁断の恋から逃げ出す為に。佐々木を利用するんだ…。
最低な、女。
「忘れさせて…私から、あの人を消してよ…」
これが、本当に私の望んだことなの?
高校生である私には、わからない。
ただいっぱいいっぱいな感情を、佐々木にぶつけた。
青春ストーリー♪爆
姫香の、いっぱいいっぱいで自分の気持ちが分からなくなる感じ。
ええ、私です←