第十話:甘さ
「やめてっ……!」
ああ、佐々木が怖い。何で、こんなことするんだろう。
男の子が誰とでもこういうこと出来るって、本当だったんだ…。
「んっ…右京…」
やめて、やめて、やめて…。
自然と私の身体は佐々木を拒んでいた。そして、私のブラウスのボタンを乱暴に外していく。
その行為に、鳥肌が立つ。あの時緑川慧にされたことがフラッシュバックする。
「いやぁっ………!」
思いっきり叫ぶと、佐々木は私の体から離れた。佐々木の表情はというと蒼白。この様子なら、何もしてこなさそうだった。私は安堵の溜息をついた。
「ごめっ…右京…!」
慌てふためいている佐々木を見ると、なんだか許せる気がして。平静を保ちながら、静かに「もういいよ」と言った。口調を柔らかくしても、佐々木はまだ悲しそうな顔をしていた。
「佐々木さぁ…溜まってたの?」
「……は?」
思わず口にする。だって、誰とでもよかったんでしょ?「好きなんだ」なんて簡単に言えるもん。それに、佐々木なら私の他にも相手いっぱいいるじゃん。全部全部、言ってやりたかった。口に出そうとすれば喉らへんで言葉が止まっちゃって、イライラする。
でも、なんで私がこんなにイライラしているのか分からなかった。だって、私は先生が好きだもん。皆沢先生が。
―――だったら、佐々木が誰とやってもいいじゃん。たまたま傍に居たのが私で、こうなっただけじゃん。佐々木は謝ってるし、佐々木とは「友達」だから許したんでしょ?
…アレ?友達?ダレト、ダレガ?
もういい、考えるのがめんどうだ。もういい、どうでもいい。
私は、先生のことだけ考えてればいいの。
「…なんでもないっ。けど佐々木、次からは好きなことこういうことしなよ?」
作り笑顔。引きつってたかな。
佐々木、悲しそうな顔してるし。ごめん。
見てるのも辛くなってきて、私は屋上から出ようとした。
「っおい!」
呼び止める佐々木の声も、聞こえないフリ。
だって、振り向いたら泣いちゃいそう。だから、立ち止まらない。
そして、ドアに手をかけた。
―――ガシャン。
「えっ?」
…ドアは、開かなかった…
「…さっき、言ったじゃん。下校時刻過ぎてるから…って。呼び止めてもシカトだし。」
ああ…さっきの呼び止めは、そういう…ことだったのか。
でも、それだと…朝まで、佐々木と…
「さっきはごめんな。もう、しないから。」
突然の佐々木の言葉。私が不安だったこと、分かってたのかもしれない。けど、私は何言葉を発することが出来なかった。だって、自分の気持ちが分からないから。先生のことが好きなはずなのに、心が佐々木に揺れている気がする。なんて、私って単純?
これが新しい恋心、なんて思ってる。
その想いが単なる逃げ道であることを、私はちゃんと自覚していた。
けど、私は楽な方へといってしまった。
先生だけを想うのが辛くって、自分を好いてくれる佐々木に逃げようとしていた。
たとえそれが周りのみんなを傷つける結果になろうとも。