第一話:禁断の片思い
傾向、切なく頑張ろう!です(´・ω・`)←
男子生徒とは馬鹿みたいに騒ぎ、女子生徒には馬鹿みたいに騒がれ。
生徒にも先生にも、年齢・性別問わず人気のあるこの男は、数学担当の先生であり、私の担任である。
――――皆沢叶。
新米教師で、この学校には去年入ってきたばかり。
そんな今年で二十四歳になる彼は、愛想がよく要領もイイ。
まぁ、要領がよくなきゃ生徒と先生の付き合いを両立することなんて無理な話だとは思うが。
でもその割には、「皆沢先生は、川村先生と矢野と二股をかけている」なんて噂がたったりもしたことが過去にあった。
川村先生とは、美人な英語教師だ。背は高く、男教師からの誘いもやまない。
けど、川村先生は皆沢先生とは違って誘いを断りまくっている。
矢野とは、学年一男受けする顔をもつ美少女だ。
どちらかといえば、美人というよりは「かわいい」。それは、彼女が童顔で身長が低い為だろうか。
彼女たちによれば、はた迷惑な噂…でもないかもしれないが。
けど、そんな間違った情報を流されて、他のライバルたちに色々と因縁をつけられてイジメられるなんてのは絶対に嫌だろう。
なんの関係もない彼女たちがそんな目に合うのはかわいそうだと思うが、皆沢先生にいたってはそんなことは一瞬でも考えはしなかった。
―――いつも来るもの拒まずみたいな態度とってるから、反感買うんだよ。自業自得………
けどこんなのはただのやきもちだ。だって私は、先生のことが好きだから。
「…じゃあ、次。xとyの関係式。これは簡単だろっ。誰かにやってもらおっかなぁー。」
ルンルン口調で人差し指をきょろきょろと動かせる先生。
そんな先生に、内心ときめきつつも表では冷静な態度。
私はなんてかわいくないんだろう、としみじみ思う。
「…じゃあ、右京。」
人差し指の延長線上には私がいた。
先生は、にこっと笑って私の名前を呼んだ。
正直みんなは、先生のことは好きだけど先生の授業はどうでもいいみたいだ。
でも、私はちゃんと聞いてる。
そのおかげで、授業を聞かない人に対する悲しい瞳も見れてしまう。
そんな時、いつも思う。
先生の授業、ちゃんと聞いてる子いるよ。
それは私、だけどね。
「…出来ました!」
私が黒板から目を離し、先生の方を振り返った。
先生も私の方を見てて、私と目が合うと微笑んでくれた。
「…正解。簡単だったかなぁー。」
「私、復習問題なら出来るんです」
「あー、だからこの問題は出来たんだな。」
こんな言い方をされたら、普通むかつくだろうけど…
本当のことだから。この問題は出来るけど、他の問題は出来ない…
そう。私は、頭が悪いのだ。
けどその分復習を頑張る。
先生も、それは分かってくれたみたいだった。
「嘘だよ。お前は努力家だからな。学力も、これから伸ばしてけば大丈夫だ」
そう言って私の頭を軽くぽんぽんと叩くと、フッと微笑んで手を離した。
この時、「もう一生頭は洗わない!」なんて定番なセリフを頭に思い浮かべたが、私はそんな純粋な考えさえも「洗わなかったら汚いじゃん。」と冷静に片付けてしまった。
私は無言で席についた。
相変わらず教室のみんなは先生の方をみていない。
いや、見ている人はいるんだけど、肝心の授業を聞いていない。
私が席についた瞬間に先生を見てみると、先生はやっぱり寂しそうな顔をしていた。
「要領はよくても、やっぱり新米か…」
私がそう呟いてみる。
周りはうるさいから、こんな私の言葉もかき消してくれる。
そういう面では、こんなうるささも便利だな、なんて思った。
「おーい。みんな、俺の授業聞いてくれよ〜」
先生がとうとう苦笑いしながらみんなに言った。
みんなは先生の方を見たけど、「だって数学は嫌いだから」なんて言ってまた自分のしたいことを再開する。
そして先生は、とうとう怒った。
「苦手だからって授業聞かなくていいわけないだろ!てかその逆。ホントに聞きたくないやつはでてって?俺が悲しくなるから」
怒ってても、やっぱり先生の顔に威厳は感じられない。いつもの、優しい先生。
こんな優しい先生だけど、みんな先生の言うことちゃんと聞いてる。
その辺は、先生の中に何か魅力があるからなのかな、と思う。
「皆沢センセ〜。ごめんねぇ…」
一人の女子生徒がちょっとだけ申し訳なさそうに言う。
その発言の後に、別の生徒が言った。
「センセー!それなら、質問会とか開いたらどうですかっ?質問する時って、授業で聞いた上でも分からないから更に聞きたいからするじゃないですか?先生人気だから、質問したいからって授業を聞いてくれる子が増えると思うんですけど」
馬鹿な私は、そんなこと思いつかないから、それを提案した子に「ナイス!」って心の中で思った。
「あーいいな、それ。んじゃあ俺質問会開くから、ちゃんと授業聞いとけよ!」
先生が満面の笑みで言う。
女子生徒は、声に出さないだけで心の内で「かわいい…」って思ってるに違いない。
だって、私はそうだから。
先生が好き。
そりゃあ、先生がたくさんの女子の中から私だけを選ぶなんて可能性は少ないけど…
けど、もしかしたら、なんて思ってしまう。
―――けど、その可能性さえ先生の言葉でなくなってしまった。
「まさか。生徒と恋愛なんてありえないだろ」
聞いてしまった。
学校の裏庭で、皆沢先生と、皆沢先生と仲のいい柏木先生が話しているところを。
二人は、煙草を吸っていた。
そんな皆沢先生の仕草もかっこいいと思ったけど、体に悪いからやめてほしいな、とも思った。
こんな呑気なことを考えながらも、悪趣味ながら先生たちの会話はきっちり聞いていた。
「お前、女子生徒にモテモテじゃん。いーよなぁー。」
そう言ったのは柏木先生だった。皆沢先生は、微笑んで柏木先生に言う。
「悪いな。俺、元からなんだ。」
「うわっ、むかつくー。つか、あんだけもててんならお前のことだから陰で付き合ってたりするんじゃねーの!?禁断の恋、みたいな感じ!」
柏木先生が笑いながら言う。
皆沢先生も同じように笑いながら、言ったんだ。
―――セイトトレンアイナンテ、アリエナイ―――――。
そう言った皆沢先生の表情は笑っていながらも、いつもの明るい皆沢先生からは想像もつかない
ような冷たさをもっていた。
固まる体。
冷たくなっていく心。
私はその場から逃げ出すことが出来なかった。
けど、体が動かなかった代わりに心だけが逃げちゃったみたいで、あたしは意識を失った。
遠くの方で、愛しい声が「右京!」と何度も私のことを呼んでいた。
私は、その声を聞いただけで頬がゆるんでしまった。