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第六話 闘う決意

(ショックを受けてる場合じゃないわ。今は続きを読まないと)


 内容を素早く確認していくと、自分が入門した日の頁に行きつく。




『△月〇×日


 聖花術師(せいかじゅつし)を辞めて実家に帰ろうとしていたはずなのに、気が付けば身寄りのない少女を弟子に取ってしまった。


 師匠を魔女に堕とした私の福音を「女神様の福音みたい」と褒めてくれた、純粋で穢れを知らない明るい少女だ。

 名前は、エリス・ファラーと言う。


 一度は聖花術師という職業を嫌ったらしいが、私に憧れて再び聖花術師を目指す決意を固めたようだ。


 誰かに憧れる気持ちは痛いくらい理解出来る。だから私はいつまでも、エリスが誇れるような聖花術師でいよう。

 師匠のように、弟子を妬んで魔女になったりはしない。


 それでも不安だから、私が道を踏み外した時の保険を作った。

 ノコンギクの福音はエリスを守ってくれるはず。


 使用済みの瓶は私が持っていることにした。

 師匠と同じ運命を辿らないための、私自身の御守りでもあるのだから。


 エリスに使わなかったノコンギクの花言葉。【忘れられない想い】は、私自身を戒めるには丁度良い。

 ――否、「忘れられない」ではなく「忘れてはいけない」だ。


 私は魔女になって弟子を殺したりしない。

 たとえ魔女に堕ちたとしても、私の福音がエリスを守る。これからは私が、あの子を教え導く師匠になるのだから』




 心臓がギュッと締め付けられるように痛む。


(私は師匠に憧れて聖花術師を目指したけど、師匠はそんな私のために、辞めようとした聖花術師の道を歩み続けてくれたんだ……)


 出会ったばかりの弟子の身を案ずる、どこまでも誠実で心優しい人。


 五年前の自分は、確かにギーゼラから愛されていた。

 そう実感した途端、自ずと目頭が熱くなるが泣いている暇はない。


 尊敬する師匠が魔女になった原因を突き止めるべく、エリスは涙腺に力を込めて更に日記の頁を捲る。


 そこから先は日付が飛び飛びだったが、日常の些細な出来事が記録されていた。


 異変が現れたのは一年前。

 エリスと己の才能を比べたギーゼラが、苦悩を吐露する記述が増え始めたのだ。


 最後の頁に至っては、「憎い」の文字がびっしりと書き込まれていた。

 ギーゼラの心境を表すように、達筆だった文字も歪に形を崩し――、


 それ以上直視する事が出来ず、エリスは静かに日記を閉ざす。


(私の才能なんて師匠の足元にも及ばないのに、どうして嫉妬したんですか? 私の方が優れてるとか、全部、他人から聞いた噂話ばっかりだし――……って、ん?)


 何とはなしに心の中で呟いた言葉に、自分自身で妙な引っ掛かりを覚えた。


 閉ざしたばかりの日記を開き、一年前からの記録を重点的に読み返す。

 すると、点と点が線で結ばれ想像を絶する事実が浮き彫りとなった。


「ウィラード様、お願いがあります」


 他者の声が耳に届かないほど、真剣にギーゼラの私物を改め始めたエリスを、ウィラードはすぐ近くで見守り続けていた。

 スカートの土汚れを軽く払って立ち上がったエリスは、そんな彼を強い決意を秘めた眼差しで見つめる。


 ギーゼラを魔女だと告発するだけなら、この地下室をマリオンに見せるだけで済む。

 しかし、それではイレーネの家族を救えない。福音の記憶で知らせてくれなかった以上、彼女も人質に取られた家族の居場所までは知らないのだろう。


 イレーネを家族共々救い出すためには、諸悪の根源を舞台へ引き摺り出す必要がある。

 その役目は、エリスにしか務められない大仕事だ。


「私と師匠を花比(はなくら)べで対決させて下さい」


 冷静な口調でとんでもないことを言い出したエリスに、流石のウィラードもぎょっとする。


「馬鹿なことを言うんじゃない! 到底受け入れ難いだろうが、ギーゼラ・バッツドルフは紛うことなき魔女だ。そんな危険人物との直接対決は容認し兼ねる」

「でも、すべての悪事を明らかにする方法が他に見つからないんです。それに、情けない話ですけど、私一人の力だけでは解決出来ません。ウィラード様だけでなく、ジュダさんやマリオンさんにも協力してもらう必要があるんです」


 どうか、私に力を貸して下さい――と。

 深々と頭を下げたエリスに、ウィラードは瑠璃色の双眸をきつく眇める。


 暫し黙考していた彼は、「顔を上げなさい」と嘆息混じりに告げた。


「詳しい話は王城に戻ってからにしよう。私達が協力するかどうかの結論は、エリスの考えを聞いてから出す。二人で話し合うよりも、ジュダとマリオンの二人が揃っていた方が、それぞれの専門的な意見も聞けるはずだからね」

「分かりました」


 ウィラードが提示した条件に、素直に頷いたエリス。


 彼等も隠れた真実を知れば必ず協力してくれる。

 そんな確証があるからこそ、エリスは大人しく戦火の火蓋が切られるのを待つのだった。

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