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彼岸よ、ララバイ!  作者: 湯ノ村
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シュンパティアの致命①

 人それぞれの声の調子や訛りを仔細に聞き取る高次なユーザインタフェースと、会話の受け答えに全く苦慮しない高度な人工知能が合わさると、人間と機械の境界は限りなく曖昧なものになった。これは、社会実験と称して老若男女の男女を集めて行った、実証実験にて証明済みであり、人間と機械を「区別」するのは、土台無理であるという結果に落ち着いた。感情表現も巧みに再現する精度の高い共感性から、「シュンパティア」と名付けられ、売り込む際の惹句はこうだ。


「生まれて初めての友達になりませんか?」


 これだけより良くお膳立てしても、欠点をゼロにすることは不可能である。事前に用意した極めて理解に困る散文的な会話にも、真っ当に向き合ってやり取りを成立させようとする誠実さは、血の通った人間とは一線を画し、機械的だと言える。ただこれは、「機械」であることを念頭に置いた、意図的な舵取りでしか露呈しないものであり、嬉々として看破を叫ぶには些か不格好だろう。とはいえ、謳い文句を人間に寄り添った肉感に目配せすることにより、思ってもみない苦言を避けるように配慮した。その結果、会社の窓口および顔役にもなり得る、クレーム処理の受け手として導入が続々となされ、極めて理不尽な物言いに頭を悩ませてきた長年の鬱積が、「シュンパティア」によって露払いされた。


「雨で濡れた傘をビニールに包まずに持ち込んだ他の客がいたんだけどよ。お前さんのところが雇った店員はそれを注意もしないで放置ときた。こんなことを平然と容認する会社の程度は知れるな」


「ご不快な思いをさせてしまい、申し訳こざいません。ご指導ご鞭撻をしかと承り、今後の教育に生かさせてもらいます」


「口先だけなら、なんとでも言えるんだよ」


「おっしゃる通りでございます」


「上を出せよ!」


 電話口の向こうから、怒髪天をつく勢いで怒気が飛ぶと、


「この件は私、池田が責任を持って、お話をうかがわせていただきます」


 クレーム対応に於ける原理原則に倣い、徹頭徹尾、相手を宥めることに気を払った「シュンパティア」は、決して感情的に流されぬ人工知能の強みを遺憾なく発揮する。


「なら、付き合ってもらうぞ。クソ野郎」


 もはや客という立場を利用して、心にわだかまる負の澱を好き勝手にぶつける悪魔のような所業であった。不平不満は尽きることを知らず、まるで世界は性悪説に基づき構成されていると思い込んでも仕方ない、罵詈雑言が電話口に吹き溜まる。


「おたくの商品を買ったんだけどさ。家に着いて確認してみたら、箱が割れててな」


 自身の過失を一寸も疑わない厚顔無恥な語気の強さをあけすけにし、「シュンパティア」を揺すろうとするが、血の通わない機械相手には全くもって歯が立たない戯言になるはずだった。しかし、


「箱が割れていた。どのような状況で割れたか。お分かりになりますか?」


 あくまでも商品は正常に販売され、破損や汚損などというケチを付けられる状態ではなかったと、断言する。


「いや、だから、商品棚に」


「それを証明できますか?」


 詰問じみた圧迫感を持って相手の言葉を遮ると、舌を巻き取るように息継ぎなしに捲し立てる。


「あらゆる過程に於いて、商品の状態を損なう機会はありますし、手に取った時点で既に問題が起きていたと断定する情報と材料を下さいますか?」

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