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彼岸よ、ララバイ!  作者: 湯ノ村
61/152

目蓋がピリリ⑦

「……」


 銅像さながらの思案を見せる同居人は、訝しげに表情を作ったまま、黙してしまう。どこから手に付けていいか分からず、閑却に扱う事しか出来なかった。私はいつものようにコンビニ弁当を電子レンジへ突っ込み、夕食の準備を始める。視界の端では今も尚、同居人は固まったまま動く気配がない。


「また事件があったらしい」


 ゆくりなく口を開き始める同居人は、「また」と言って、件の事件のニュースをしっかりと聴いていた事を遠回しに言った。


「今度は公衆便所で、男が激しい殴打に遭って死んだって」


 私は電子レンジで温められる弁当の具合に注意を傾けながら、同居人がする四方山話は半ば窓の外でわだかまる風のように取り扱う。


「監視カメラが記録する犯行時間から推測するに、髪の長い女が公衆便所へ入ってから出て行く間に被害者の男は襲われたと見られているらしい」


 熱で弁当の容器が湾曲を始め、私は電子レンジを止める。


「……なんか言えよ」


 居間のテーブルに腰掛けて、夕食を頂く手前まできた。


「何を? 事件なんて四六時中、どこかで必ず起きてる。今だってそう。こうやって話している間にも、被害者と加害者は生まれている」


 平々凡々とした返しにはなったが、一つの事件を論って語ろうとするのは、木を見て森を見ずに語るも同然。


「……俺は、お前と暮らす上で、如何なる趣向にも呑み込んできたつもりだ」


 同居人は神妙なる顔付きで虚空を捉えて離さない。


「でも、もし仮にそれが……その」


 言葉を窮するばかりで要領を得ない同居人の身持ちを私は眺める事しか出来ない。


「お前はどこまで本気なんだ」


 結論を私に預けるのみで判然としない同居人へ、首を傾げてその腹の一物を晒すように唆す。だが、いつまで経っても本分となる話し合いに発展しない為、私は夕食の弁当を食べ始めた。すると同居人は、世にも奇妙な物を眺めるかのような訝しい目付きで私を凝視する。それでも手を止める事なく食事を続けていれば、背中にマサカリを担いだ老生の腰の曲がり具合を真似た同居人が自室へ入っていくのを見送った。


 髪を切るのはいつだって浴室だ。その手捌きは今までの経験に基づいて、十分と掛からぬうちに切り揃えられた。鼻を近付けてみると臭った為、入念に髪を洗った。軽くなった頭は些か物寂しく感じつつも、心機一転に丁度いい変化である。


 繰り返される朝日の到来を今更ながら恨むつもりはない。これがなければ人は歩くべき指標を失い、路頭に迷う事になると知っているからだ。それは魂が何処へ向かうかへの答えに繋がり、背後を歩く足音の数に納得した。

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