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彼岸よ、ララバイ!  作者: 湯ノ村
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割れ物

 積み立てられた石を神聖視し、なるべく干渉を避ける心は、しきたりや慣例、善悪を解くための教養に由来する。しかし、魔が刺したという言葉がある通り、人は業の深い生き物だ。それらを意図的に蔑ろにする性悪な奴らが世の中にはいる。今日、それをまざまざと見せられた。よく利用する時間貸し駐車場の一角で鎮座していた積石がみごとに倒され、辺りに散らばっていたのだ。私は忌々しく思うと共に、積石があるが故に潰れていた駐車位置が取り戻されたことに、密かに感謝してしまう。皆が渡っているのならば、赤信号でも構わず渡る道義心の持ち主であった。


 駐車場に停めていると一目で判別できる赤いセダン車が私の愛車である。よしんば、愛車の駐車位置を失念したとしても、鼻っ面や背の高さでしらみつぶしに探すより、易々と駆け寄ることができる。いつもの時間貸し駐車場で、景色に目をやりつつも、印象的な赤い色を視界の端に捉える。惑うことなく運転席へ回り込むと、身体は卒倒気味に固まった。それほどの驚きが私に襲ってきていて、目の前の現状に対して正しい認識を下せずにいた。ただ言うなれば、不可視の力が私をこれほどの混迷に至らせたわけではない。明確な悪意のもと、起こった事象が暗夜の礫のように飛んできたのだ。


 窓ガラス全体に行き渡った肉眼では到底追いきれない細かい亀裂は、腕一本を通せる程度の穴から始まっている。運転席に散らばるガラスの破片は、外界から殴り付けられた証だ。今さら辺りを見回す陳腐な後の祭りに愚を極め、人目も憚らずその場にしゃがみ込む。その影法師は都合ばかり追いかけた自身の小賢しさによる悔恨を象ったものに違いない。

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