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彼岸よ、ララバイ!  作者: 湯ノ村
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ともだちの作り方②

 同じ暗闇の中でも自身のベットの温もりにより、自室に戻ってきたことを肌で感じる。期せずして鉢合わせた殺人衝動に、汗の轍がいくつも顔に残っていた。授業中の眠気眼は如何にして作られて、底意地の悪い仔細顔が拵えられる過程を承知して頂けたと思う。


登校のために齷齪と身体を動かすストレスは比類ない。歯を磨きはすれど、寝癖は手で抑える程度に頓着し、着慣れたジャージに腕を通す。見るからに寝不足だと判る赤みを帯びた白目は、目配せのみでその気怠さを共有できる。午後の授業を見据えて食堂に来ている学生の中で、俺だけがこのような気怠さを湛えていた。


「今日はえらく眠そうにしてるな」


「ここに来るより楽しいことはいっぱいあってね」


 噂と称して秘密を流布する相手として隣に座るクラスメイトは申し分なく、件の出来事がいつ話せるようのか。俺は内心、ワクワクしていた。だが今はこの気持ちを抑え込み、付け合わせのお新香を口に放った。


「ごちそうさま」


 ほとんど手付かずの白身魚とご飯のセットを横にずらし席を立つ。


「おいおい、これ全部食べろって?」


「頼むわ」


 後腐れなく立ち去るつもりでいた俺の後ろ髪を、料理を無下にした仕返しのようにクラスメイトに引っ張られる。


「まさか、同級生の家族に殺人事件の被害者が出るなんて夢にも思わなかったよな?」


 その仔細顔は頗る気に入らなかったが、座席に戻るだけの理由を俺は抱えていた。


「同級生って、誰のことだよ」


 唾が飛び交う食堂の喧騒とは場違いに声を窄める。


「刈谷透」


「知らないなぁ」


 素知らぬ体裁を繕いながらも、腑に落ちていた。あの町の厄介者を伝って渡った先は大抵、年齢や男女の差異さえ分からず終いで首尾が悪い。名前による判別など言うに及ばず、噂を流布するだけの情報は得られない。


「刈谷は白川団地の近くに住んでてさ。辺りは大騒ぎだよ」


 良し悪しに関わらず、報道機関が出張ってくる早さには驚くばかりである。三日と立たずカメラマンを相手に甲斐甲斐しく口を動かすアナウンサーが現れ、コメンテーターや専門家がそれぞれの見地から意見を出し合うのだから。


「被害者の刈谷藩さんには頻繁にやり取りしていた交際相手が居たようですね。家族とも顔を合わせていて、面識があるとのこと」


「警察によれば、中で争った形跡はないし、荒らされた様子もない。となると怨恨の線は非常に濃くなる」


 淡々と犯人像を婉曲に作り上げていく第三者による推察は、視聴者を巻き込んで加熱していく。家族構成から始まり、父親の勤め先や被害者である姉の弟が通う中学校にまで目を光らせる。もはや真相などお構いなしに、被害者家族を食い物にして楽しむ形式上の推理ごっこが繰り広げられ、マスコミの視線に追い回される立場にある弟の刈谷透にとって、学校は聖域そのものであった。しかし、刈谷透が歩く先々で一斉に伏し目に翻る様は、もはや加害者の扱いと変わらない。それでも、誰もが黒板に向かい、カリカリとペンを走らせる間だけは、一介の学生としてその場に馴染めた。授業が終われば、自分の席を居場所とし張り付く。俺は教室を跨いでそんな刈谷透に声を掛けた。


「おはよう」


 初対面でありながら、まるで以前から交友関係にあったかのように柔和な笑顔をぶら下げる。


「おはよう……」


 困惑気味な刈谷透の反応はあまりに真っ当で俺は笑った。とくに話したいことはなかった為、授業の始まりを告げるチャイムが鳴れば、直ぐに刈谷透から離れた。


「また来るわ」


 そう言い残して教室を去った後、有言通りに放課後に合わせて刈谷透の目の前に現れる。


「一体、何なんだよ。僕から何を聞きたい」


 そう苛立つ刈谷透の姿に俺は確信した。


「俺たちきっと、最高の友達になれる」

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