はじまり1-7
一馬は焦った。なかった事になどさせたくない、気持を伝えたい衝動に身を任せる。
「俺はミライの事が好きなんだ、半年前からずっと想ってる」
まともに未来の顔を見ることができず、下を向き、ゆっくりと言葉を選びながら、気持を伝えた。緊張の余り、体が震える。
「返事はすぐじゃなくていい、俺のこと知ってからでいいから。ただ、気持だけ知っておいてほしかった」
「…うん、伝えてくれて有難う。今はお友達としてよろしくね」
「こっちこそ!良かった、やっと言えたー。これからはめっちゃ話しかけるから!」
「うん、たくさんお話ししようね。そろそろ授業が始まるから戻るけど…」
「あ、そうだよな、うん。もどろ!」
「うん」
にこにこと笑う未来――ミクの内心は穏やかではない。本来はミライが受けるべき告白を、自分が受けてしまった。一蹴しようかとも思ったのだが、ミライの彼氏候補を勝手な判断で切り捨てるわけにもいかないのだ。
教室に戻り愛花と合流するも、気持が落ち着かない。ミクにとって、一馬は苦手な部類に入る事がよくわかった。
「ちょっとミク?聞いてる?」
「ぼーっとしてました」
「だから、あの男の子と何があったのよ?」
「プライバシーの問題に抵触しますので、お答えしかねます」
「うっわ、機嫌悪いわね」
「そんな事ないよ」
これ以上、この話をしたくない、という意味合いを込めて、満面の笑みでこたえる。
愛花の笑みは、引きつった。
「そ、そう。ほら、もう授業も始まるし、わからないところがあったら言ってよ?」
「うん、有難う」
授業自体は復習していたのもあって、問題なく進んでいく。あっという間に、今日の講義は終わってしまった。帰り支度をしていると、愛花が心配そうに声をかけてきた。
「何があったか知らないけど、相談くらいは乗るから」
「…愛花、今日は時間あるの?」
「特に予定もないし、空いてるけど」
「コーヒー、飲みに行こう」
ここまで心配をかけてしまった以上、少なくともミクは一馬が苦手であることだけでも伝えようと、2人で教室を出た。