はじまり1-4
ナツに一通り話を聞いてもらった後、洗濯が終わったからと話を切り上げ、洗い終わった洗濯物を干していく。その間もずっと考えていた。ナツの言葉がぐるぐると巡る。
好きだって言われたら付き合っちゃうんじゃないの?
一馬のことはよく知っているわけでもない。だが、想いを寄せてもらえているならば、応えたい、とも未来は考えていた。
その考え、甘くないですか?
彼女だ。気まぐれで、バイトを辞めることになる理由の大半は彼女が作っている。それでも、幼いころから、彼女――ミクには救われてきた。
私も甘いとは思うけど…
脳内での会話。両親はミクの存在を知らない。知ろうともしない。病院に連れて行ってもらったこともなければ、行こうと思ったこともない。もしミクが消えてしまったら……。ミライは自分が壊れてしまう気がしているのだ。ミライにとって、ミクは欠けがえのない存在。
私なら、関わらないようにしますね。
うーん……、少し考えてみる。ナツくんのアドバイスもあるし。
そうしなさい、情に流された恋愛は悲惨ですよ。
ミクの声が遠のいていった。
情に流された恋愛は悲惨、経験談から言っているのだろう。ミクはミライとは違って、恋愛経験がある。あくまでもミライはミライで、ミクはミクなのだ。
記憶も全てを共有しているわけではなく、お互いのプライバシーに関わる事には触れないようにしてきた。もちろんこれからも、そうしていく。
「なんで同じ体なのに、ミクはモテるんだろ…」
短い溜息をつきながらも、洗濯ものを干す手を止めることはない。干し終わる頃には空腹で頭がクラクラしだしていた。
低血糖の症状だ。体質的に、低血糖に陥りやすく、酷い時は倒れてしまう。すぐに夕飯を温め、糖質を補給した。
きっと色々な事を考えすぎたのだ、と結論付ける。こういう日は早く寝るのがいい。
明日は一馬と同じ授業があるが、考えることを辞め、ミライは眠りについた。
夢を見た。昔の夢。父の拳が眼前に迫ってくる。
「っ……!」
拳が届く直前で飛び起きた。肩で息をする。呼吸が整わない。意識が朦朧としていく。
ミライ、代わりなさい!
ミク……!
ミライはミクに身体を預け、意識を手放した。
「まったく…離れてもなお、付き纏いますか」
ちらつく過去の映像を鬱陶しげに、口元を手で覆う。数秒、息をとめ、ゆっくりと呼吸。何度か繰り返し、ようやく落ち着いた身体を力が抜けるまま、ベッドに横たわる。あのままミライが出ていれば、過呼吸になっていただろう。
ミクはミライよりも、こういった状況に強いのだ。
「一馬さんでしたか…彼の事もありますし、少しの間、私が出ていますよ」
その言葉がミライに届くことはなかった。