8)鎧という在り方
鎧ちゃんの内面話。
ちょっと書いててキャラが掴めなかったもので…………。
ワタクシはずっと、なにも出来ない自分が嫌いでしたわ。
名もなき鎧としては良質な、護るべき部分を金属で補強した混合式硬革鎧。
それがワタクシです。
金属鎧に比べて軽く、革鎧の中ではずいぶん頑強だったワタクシは、結果。多くの主たちの元でその身を護る役目につきました。そう。多くの、ですわ。
有る方はワタクシの護りを信じて、裏切られ死にました。有る方は無慈悲な野盗に襲われて、死にました。有る方は迷宮の中、バケモノ達に群がられ、やはり死にました。
状態保持の魔術がかけられた私だけ、私だけがその場に残り、また新たな主に拾われ次の護りを始めます。その度にワタクシは、主を護りきれません。
鎧は主を護る為にありますの。この身をもって主を迫る脅威から護る為のモノなのです。
ですがその実、鎧はなにも護れませんわ。なぜならこの身は動く術など持ち得ない、只一介の革鎧なのですから。
目の前で、私を身に包んだ主が死にますわ。また、死んでいきます。
その度にワタクシはそれを見守ることしか出来ない、動けぬ自分を呪いましたわ。
そういうふうにワタクシを創り上げた神すらも。
そうしてワタクシの呪詛が魔毒として貯まり出した頃、ワタクシは一人の天使に回収されました。この身に宿すその呪詛は、どうやら許されざるモノだったようです。
しかしワタクシはホッとしました。これでこの残酷な運命が終わると。
誰かを護りきれない鎧として、成す術のない鎧としてのあり方が終わるのだと。
しかしそうではありませんでした。ワタクシが運ばれたのは天界の宝物庫。
どうやら私の呪わしい運命はまだ続くようです。
永い時を、天界の宝物庫で過ごしましたわ。多くの魔具が、新たな勇者の伴として出ていき、天使に回収された新しきモノが、そこに加わりました。
彼等はどれも一級品。優れた護りと、逸話を持つ伝説の品。
対して私は優れていても名もなき品。
ああ、ここでならワタクシの出番はもうこないのかもしれないと。
ワタクシはこの身ひとつ。
その日も宝物庫の片隅で呼ばれぬことを祈っていました。
しかしそれは叶わなかった。
私の次の主人は、多分戦士の心得もなにも持たない男のヒト。
ワタクシを包む体つきが、それをワタクシに告げてきました。
ああ、またか。ワタクシがかつてのように僅かに呪詛を貯めこもうとした時。
そっとそのヒトの手が、土草に触れました。
その瞬間。
そのヒトの手の下から、多くの小さなヒトの子らが出てくるではありませんか。
なにが起こったのか、ワタクシには、まったく理解できませんでした。
続いてその手が動きます。そして、……ワタクシへと触れました。
気付けばワタクシは、生まれ変わっていたのです。
視える、聞こえる、匂える。動、ける。
それはずっとワタクシが焦がれてやまない、自由に動けるカラダでしたわ。
あまりの嬉しさに、あまりの情動に、ワタクシの目からは只々熱いものが流れ。
ワタクシは声を漏らして泣き崩れます。
ああ、ああ、カミサマ。カミサマ。ワタクシは貴方様をあんなに呪っていたというのに。貴方様は、ワタクシの、この身の願いを聞き届けて下さるというのですか。
ワタクシは、護ってよいのですね?
ワタクシが、護って、よいのですね?
ワタクシは只々カミサマに感謝し、今までの不敬を詫びた。詫び続けたましわ。
そして。そのヒトが自身の装備と衣服全てにその自由を与えた後、ついに我が身にも触れて、その身を光らせます。眩い光が晴れた時、そこには。
永い時を経たワタクシですら、未だ見たこともない麗しさを持った女性が一人。
その時ワタクシは理解しました。
ああ、貴方様。貴方様こそが、カミサマなのですね?
貴方様を散々恨み呪ったワタクシの、こんなワタクシの願いすら聞き届けて下さった尊きお方。
なんという、なんという慈悲深き貴方様。
ならばワタクシは貴方様の鎧として、その身を護り抜きましょう。
あなたから与えられたこの身を持って、護りたいと願い続けたこの心を抱いて。
たとえどのような苦難が貴方様を襲おうとも、世界全てが敵にまわろうとも。
ワタクシは必ず貴方様のお側に仕え、万難全てに抗ってみせましょう。
なぜなら、このワタクシは貴方様の鎧なのですから。
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