6)ヴィナカムィ創世記2
剣ちゃんは軽装に剣1つ腰に差したクール美人さんらしいっすよ?
その時、突然。
今まで上機嫌であったカミサマの表情が一転した。
今カミサマはまるでこの世の全てに絶望してしまったかのような深い悲しみを抱えて、
沈みこんでおられる。
周囲の警戒の為、少し離れた所でカミサマ達をずっと見守っていた剣の私は、カミサマの動きの一部始終を見ていた。
衣服の少女たちを確かめられたカミサマは、慈愛に満ちた表情でワタシたちのことを認めて下さると、皆一様にそれはもう喜んだ。私だって内心大はしゃぎしたものだ。
だか一転。
カミサマが衣服の少女達をやさしく避けていき、自分のお身体をご覧になられてから、このご様子だ。今も陰った表情で自分のお身体をお調べになっておられる。
みなもしやと思う。
もしかしてカミサマは、私達を作り出す為に何か大切なモノを失われたのでは?
考えてみればカミサマがワタシたちを作り出す時、今とは違うお姿でおられた。
私達はあの美しい光景を見て、カミサマがそれまでワタシたちの前で隠しておれらた姿を示して頂けたものだと、理解していた。
しかしもし。それが我々の勘違いだとしたら。
あれが、カミサマが我々を作り出す為に、その雄姿を維持出来ぬほどお力を失った結果なのだとしたら。
その雄姿を維持できなくなる程。我らの為に力を割いて下さった結果だとしたら。
ワタシたちの存在は、どんなに罪深いことだろう。
土や岩、小さきモノから出来たモノたちが悲しみに泣き声をあげた。
アレらは私などよりよほど純真だ。単純にカミサマの、悲しむ姿を見て耐えられなかったんだろう。
しかし私や鎧、衣服たちは違う。
まるで自分自身が引き裂かれてしまったことを識ってしまったかのように深く、あまりにも深く悲しみを抱えたそのお姿をみて。
我が身の存在が、きっと呪わしいモノであることを悟ってしまう。
ああカミサマ。どうか、その悲しみをお沈め下さい。
元よりこの身はあなたに頂いたモノ。我が身などどうなってもかまいません。
それが罰だと言うのなら、この生命すぐにでもカミサマにお返しします。
今はただ祈り、歯を食いしばることしか出来ない自分が。
あまりにも無力な自分が許せなかった。
カミサマにその力を割いて頂きながら、カミサマを悲しませてしまう己の愚かさが、只々許せない。許せそうに、なかった。
このカタチを頂いて、初めて味わう虚脱と絶望。
それを払って下さったのはやはりカミサマそのヒトだった。
「ねぇ、なんで泣いてるの?」
あまりに気安く、飾らぬ言葉で、カミサマは我らのことを気遣って下さった。
誰かが代表して答えねば。
ならば年長の私がふさわしかろう。
「恐れながらカミサマ。
我らは皆、カミサマが深くお嘆きになっている理由を想像し、悲しんでいるのです。
我らを創り出したことで、カミサマが本来持っていた大切な何かを、もしこのカラダと引き換えにして奪ってしまったというのなら。
もしそうならばカミサマから生まれた我ら、とても許されるものではありますまい。
そのような事を考えて、悲しんでいるのです。」
意を決して、私が伝えたその言葉にカミサマは1つ、笑顔を讃えてお返しになられた。
あまりにも美しい笑顔に、皆一様に言葉を失う。
「みんな悲しむ必要なんてないわ。
目覚たら私の半身が居なくなってしまっていたの。それが辛かっただけだから。
それはあなた達のせいじゃないからね。」
ああやはり、私たちはカミサマの半身の力を奪ってしまったんだろう。
それをこの方はお責めにならない。むしろ我らを気遣ってくださる。
なんと気高く、なんと慈悲深い方なのだろうか。
我らが心の底よりその感動に打ち震えていると、カミサマはさらにお続けになられる。
そのお顔にとびきりの微笑みを讃えて。
「それどころか私はあなた達美しいモノ達を心から望んでいたのよ
だから、お願いだからそんな悲しい顔をしないでね、あなた達。
ねぇ、笑ってくれるかしら
私も私の半身も、あなた達の笑ってる姿が一番の望みなんだからね?」
ああ。なんという。
我らが笑う姿を、この身の幸せなどを一番と言って下さるのかこの方は。
只の物言わぬ土塊を、石を、衣服を、武器、鎧を。
己以上に思って下さるなどと。なんという誉れ、なんという幸福。
間違いなく。
この慈悲深きカミサマによって生まれ変わった我々は、世界一幸せな存在だ。
「それとね。ふふっ。私の為に泣いてくれてありがとね。みんな。」
私はこの時。カミサマのそのお姿を見た時に。
己が剣でよかったと思えた。
この偉大なお力を一切誇ることなく、我らのようなモノに心からお礼をいってくれる。
優しいお方を護ることができるから。
ならば私はただ鋭く、強くあり続けよう。
このお方を護る剣として、己をひたすらに磨き上げよう。
この思いは、この決意だけは、決して折れることなどない。
なぜならば。私はこの方の剣なのだから。
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