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世界は僕を中心に回っていることをみんな知らない。

作者: 綟摺けんご

 

「あー、お前もう雑魚だからパーティーから抜けてよ」


 それはある日突然の事だった。

 酒場で飲み交わした葡萄酒は水のように極めて薄く、酔うことも味を楽しむこともできなかった。

 僕は、一人の男と二人の女の合わせて三人が囲んでいる机に一緒にいた。


「雑魚って……ほら、僕は君たちのために頑張ってきたから……」

「だからといって荷物持ちなんて使えないじゃないか」


 男は口の端を吊り上げる。その男は昔からの旧知の仲だった。

 昔、男は孤児院の子供だった。

 親に見捨てられ、一人生きる意味もなくぼんやりとした命を浪費する生活をしていた所を僕は手を引き、共に旅をすることにしたのだ。

 男はメキメキと上達していき、強大な敵を倒せるようになると周りからは神童とよばれ、そしていつしか一国の王から勇者として呼ばれるくらいに成長した。


「そんな……僕とお前は共に旅をした仲じゃないか」

「そんなこと知ったこっちゃない。お前はこの中で誰よりも弱いんだ。弱い奴を切り捨てて何が悪い」


 男は手にしていた酒を煽るように飲む。

 口の端をから酒がこぼれ落ちる。

 僕が持っていた酒とは違い、赤く透き通った宝石のようだった。

 僕と同じものを頼んだはずなのに。


「そうそう、あんたみたいなサポーターは幾らでも換えが効くんだし」

「正直いてもいなくても困らないっていうか……」


 二人の女も、男と同じ意見をあげる。

 二人の女は男が勇者と呼ばれるようになってから現れ、それから一緒に旅をしてきた。

 そして二人の手にも、男と同じ酒を持っていた。


「……でも、あの時は……」


 僕は口を震わせる。

 三人の視線が僕をあざ笑うかのようだ。


「あぁ、あの時ってたくさん荷物あって困ってた時だろ? 嘘も方便って聞いたことないのか?」

「……そんな……でも……」

「あー、もうそんな絶望した顔しないで欲しいわ。捨て猫より愛嬌がないわ」


 女の言い放った言葉に二人は笑う。

 その言葉に僕の心は黒く染まった。

 怒りの炎が渦巻き、心が炭のように黒く焦げていく感覚が襲いかかった。


「そうそう、サポーターにもう一つ役目があるじゃないか」


 そして男は僕に指をさした。


「囮役だよ。お前が敵を惹きつけている間に俺たちが倒すくらいならできるだろ?」

「……」


 怒りで手が震える。

 そして脱力した。


「……そっか」

「あぁ、そういうことだ。つかえねぇ雑魚はさっさと出て行け」

「わかった」


 僕はバカだった。

 立ち上がり、ポケットに入っていた自分だけの小銭を置いて背を向ける。


「……レベルダウン」


 そして彼らから離れる瞬間に、呪いをぽそりと呟いた。

 彼らが所有する武器に宿る力を知覚する。

 武器に宿る力の点と、僕に宿る点が繋がっている線を切断した。


「……さようなら。勇者(とも)。もう顔も見ることもないだろう」


 僕はバカだった。

 こんな奴らに手心を加えていたなんて。




 ―――数日後。




 とある掲示板の前は人集りが出来ていた。僕はその集まっている所を割り込むように入っていく。

 そして掲示板には一枚の紙が張り出されていた。


『勇者と思わしきパーティー、全滅す』


 僕はそれを目にした時、心の底から笑った。

 そしてざわざわとしている人混みをかき分け、離れると路地裏へと足を運んだ。

 そして壁にもたれ、手で顔を覆った。


「……ははっ」


 あいつらはバカだ。

 世界は僕を中心に回っていることを知らなかったのだから。

 息を吸う。少し前までに感じていた憎しみは明後日の空へと飛んで行った。

 なんて清々しい日なんだ。思わず口角が緩み笑みをこぼしてしまいそうだった。

 肺いっぱいに入った空気をゆっくりゆっくりと吐いていく。


「ざまぁみろ」


 そうだ。

 また新しい勇者を作りにいこう。

 そうだな、今度はそこらに捨てられている死にかけの子どもにしよう。

 純情で、従順な傀儡になるに違いないが、それもまた一興だろう。



 新しい勇者作りに僕の心は踊っていた。

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