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棗はみんなの飲み物の置かれたおぼんをテーブルの真ん中に置くと、亜美の隣に腰を下ろした。
なぜそこに座ったかというと、そこにはまるで棗のために用意されていたかのように誰も座っていないクッションが一つ、置かれていたからだった。(断じて、亜美の隣に座りたかったからではない。むしろできれば棗は亜美の隣には座りたくはなかったくらいだ)
それに、部屋のバランスを考えても、ここに僕が座るのが一番しっくりくる、と感じたからだった。
そんな棗の判断はとても正確だったようで、柚もさやかも(そして亜美も)、そこが初めから棗の指定席であるかのように、棗の行動になんの反応も示さなかった。
棗はおぼんの上にある、アイスコーヒーに手を伸ばした。
すると、その横から真っ白な色をした華奢な手が一つ伸びてくる。それは亜美の手だ。亜美の手はソーダの瓶を掴んで、それを持って、氷の入ったグラスに泡の出る透明なソーダを注いだ。
瓶の蓋は二つともあらかじめ棗が栓抜きを使って開けておいた。
ソーダ水はグラスの縁、ぎりぎりまでしゅわしゅわとした泡を立てたが、決してそれは外にこぼれたりはしなかった。亜美の手がソーダの瓶を置いて、今度がグラスを手に取った。
からんと氷の音がする。
その音を聞いて、そうか、今は夏なんだっけ? と棗は今が夏であることを思い出した。
「どうかしたの? 一ノ瀬くん」ぼんやりとしている棗を見て亜美が言った。
「いや、なんでもないよ」棗はそう言って、苦いアイスコーヒーを一口、ストローで口にした。
「そういえば一ノ瀬くん。この子の名前って、もう決めたの?」
しばらく、猫と灰色の猫の話題が続いたところで、ずっと黙ってみんなの話を聞いていた棗に亜美がそう話を振った。




