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 引っ込みがつかなくなって困っていると、棗の隣にいるさやかがふふっと笑った。棗と亜美は同時に笑っているさやかを見る。するとさやかは「亜美と一ノ瀬くんは、噂には聞いていたけど、本当に仲がいいんだね」と言った。

 その言葉を聞いて、棗と亜美の顔は真っ赤になった。


 それからさやかに二、三の言い訳をして、ようやく亜美はおとなしくなった。恥ずかしくてそれどころではないと言うことなのだろう。(あとから冷静になって、恥ずかしくなるというあれだ)

 棗もとても恥ずかしかったのだけど、それよりも助かったという思いが強く、なんとなくお礼を言うようなつもりでさやかを見た。するとさやかは棗ににっこりと笑いかけた。そのさやかの顔を見て、さやかは言葉や態度、それにみんなからの一方的な優等生、あるいは上位カーストにいる(谷川さやかは、明るく元気で、勉強もできて、顔も可愛い、陸上部に所属していて運動もできる、と非の打ち所のない女子生徒だった)と言う名誉な肩書きだけではなく、ちゃんと中身もしっかりしている女の子なんだな、と棗は思った。


 とても好感が持てる。おとなしくて性格が子供っぽい亜美よりも、棗はそんなさやかのほうがずっと素敵だと感じた。

 そう思って改めて亜美とさやかを見比べてみると、なんとなくさやかは亜美のお姉さん、のように見えなくもない。それくらい谷川さやかはしっかりしているし、一見するとしっかりしているように見えて、木下亜美は子供っぽかった。


 さやかは亜美の頭をよしよしと撫でている。

 そんな亜美と棗の視線が合うと、亜美は棗に向かって舌を出してすごく変な顔をした。だから棗も、そんな亜美向かって(まるで初等部のころに戻ったみたいに)変な顔をし返してやった。


「うわー、ここに来るの久しぶり。どれくらいぶりだっけ?」と木下亜美は一ノ瀬棗にそう聞いた。

「たぶん、半年ぶりくらいじゃないかな?」と棗は答える。

 そこはもちろん、僕の(一ノ瀬の)家の前だった。

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