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「どんな猫?」と真が聞く。
「灰色の猫だよ」と棗は答える。「灰色の猫? 全身が灰色なの?」と真が言う。棗は真に「そうだよ。目だけが海の色みたいに青いんだ」と答えた。
真は少しだけ視線を落として考えごとをする。そして、しばらくして「そんな猫、日本にいたかな?」と小さな声で呟いた。
「珍しいでしょ?」と棗が言う。真は棗の言葉に頷いて「うん。珍しい」と言った。
そのときの真の表情は、棗の拾った灰色の猫と同じくらい珍しい、とても子供っぽい笑顔だった。でも、棗はその真の笑顔を予想していた。なぜなら真は『珍しいもの』が大好きだったからだ。そのことを僕は前から知っていたから、真の笑顔に驚いたりはしなかった。
「なんて品種なんだろう? そういうのはもう調べたの?」真は言う。
「調べてないよ。だから品種はわからない。でも、問題はそこじゃないんだ」と棗は言う。
「問題? それってなに?」興味深そうに真が聞く。棗はなんだか、(真が予想通りに猫に興味を持ってくれたこともあって)とても楽しい気分になっていた。だからいつの間にか棗の顔も真と同じように笑顔になっていた。
「名前だよ」と棗は言う。
「名前? どういうこと?」と真が聞く。
「猫を拾ったんだから、そいつに名前をつけてあげなくちゃいけないでしょ?」と棗は言う。真はうんうんと頷いている。




