【Recipe.3 ~神様の料理人~】 へっぽこ神様に餌付けを③
「んー」
学生が住むにしてはやや広めの物件。
9畳+4畳のロフト付き、トイレバス別というかなりの好条件。
ロフト部分に布団を敷き、数冊の漫画を並べていた寝床で目を覚ますと、自分の腹部に妙な違和感を感じた。
開ききらない目を頼りに、重さの正体を撫でる。
モフモフと心地よい感触に、手が止まらず、そのまま撫で続ける。
「おい、いい加減にしないと怒るぞ」
ビクッ!と体が固まる。
感触の正体を察した麻倉はおそるおそる、重たい瞼を開けていく。
狐色の髪と尻尾。体が小さいため、上だけ装備したスウェット。
---そして満面の怒り顔。
治りかけた頬の紅葉の後が、返り咲いた。
冷蔵庫の中に残ったベーコンと卵。ベーコンを適当な大きさに切り、油を敷かずにそのままフライパンに並べて火にかける。
その間にトースト2枚をトースターに入れてつまみを捻る。
「何を作っているのだ?」
ロフトの手すりから顔を覗かせ、朝食の香りに誘われきた。
「簡単だけどベーコンエッグにトーストだ。そういえばお前これからどうするんだ?」
「ほほう。甘美な匂いをさせておる。妾は神だからな。神同士で馴れ合うことはあっても基本的には不干渉だ。しばらく泊めてくれるとありがたいが」
(神設定をまだ続けるのか)
麻倉は半ば諦め、2人で朝食を開始。
本人がそういうのならば、深くは追及するつもりはないが、
「いきなり知らない奴を家で留守番させられるほど、お人良しじゃないぞ」
「お前の言うことは和から何でもない。人を信じられないというのは悲しいことだ」
(なんで俺のほうが諭されているんだろう)
「そういえば名前を聞いてなかったな」
「神だ」
「違う。本名だ」
「そんなものはない」
麻倉は余計に少女に対しての不信感を増していた。
名前も身分も分からないような相手では、家に留守番させるというのも無理というもの。
学校に向かうための時間も差し迫っているため、最悪警察に届けようと思っていたのだ。
そんな時、少女の腹の虫が鳴る。
「神様を名乗るくせに腹は減るんだな」
「だから神の力は失っていると言っただろ。神はその力を失うと貴様ら人間と同じになるため、どうにかして取り戻さねばならぬ」
「アテはあるのか?」
「ない」
(即答かよ)
「これやるから適当なモノでも買ってくれ」
はぁ、と大きなため息を1つついて、財布からなけなしの2千円を渡す。
「これなら電車使って家に帰れるだろ?コンビニでご飯も買えるだろうし、自分で何とかしろよ」
強引に少女を追い出し、制服に身を包み鞄を持って扉を開ける。
ゴンッ!と鈍い音を上げた扉の裏に蹲る少女。
心は痛むが、このご時世で知らない少女を家に上げるだけでなく、2日も泊めるとなると色々と危ない香りがしてくる。麻倉とて助けたい気持ちがないわけではない。そうでもなければ一晩泊めて朝食まで振る舞うなんてことはないだろう。
そうでなくても、2千円もあれば少しは時間を潰せて、麻倉が戻るまでくらいなら何とかなるという判断でもある。
「じゃな。やばくなったら本当に警察行くんだぞ」