【Recipe.2 ~神様の料理人~】 へっぽこ神様に餌付けを②
「どうした!?」
勢いよく浴室のドアを開ける。
この時、麻倉はどうして返事を待たずに脱衣所のドアを開けたのかと後悔した。
しかし、そんな後悔を帳消しにするような光景がそこにあった。
「え、」
服の上からでは分からなかったが、わずかに女性の体を思わせる張りや膨らみが存在を主張し、シャワーによって濡れた体や髪が、それらをより艶やかにしていた。
だが、それ以上に麻倉が目を奪われたのが、先程少しだけ見えていた毛先だけ茶色い黄色い髪の全貌が見えてきた。生え際まで黄色い毛先だけ茶色い髪。その異様と取れる毛は頭だけでなく、正面だったため確認はできなかったが、腰の少し下。尾骶骨の辺りから生えていた。
「いつまで見ているのだ!」
寒そうな体を自分で抱きしめている少女は睨みつけるように麻倉に目を向ける。
というか100%睨んでいた。
「乙女の肌を見ておいて何とも思わないのか。ほれ、美しいとか、綺麗だとか感想を述べてみろ」
(もっとキャーとか反応があってもいいと思うのだが)
「叫び声がしたから何かあったと思ってきたんだよ」
「なんだ。それならそうと早く言え。風呂に入ろうとしたら湯が張っておらぬし、色々いじってみたら象の鼻のようなものから冷たい水が出てきたのだ。今の人間は行水しておるのか」
「普段シャワーしか使わないから浴槽にお湯溜めてないんだよ。象の鼻はシャワーって言って、最初温まるまで少し時間かかるから待ってみてくれ」
何?そうか、と急いでシャワーに再チャレンジする少女。
数秒経ち、お目当ての温度になったのか、浴室のドアを開けて満面の笑みを見えてきた。
「それはそうと、乙女の肌を見たのだ、歯をくいしばれよ」
麻倉は甘んじて、全力の平手打ちを頬に受けた。
梅雨。
最も雨が降る季節として知られる時期に、頬に紅葉を咲かせた麻倉は電気ケトルでお湯を沸かし、カップうどんの準備をしていた。
作る気も外に出る気も起きない時に、お湯を沸かすだけで簡単にできる代物は1人暮らしの男の子にとっては必需品と言える。
絶賛生乾き中の洗濯物を扇風機に晒しながら、3分間を待つ。
「出たぞ」
その声に振り返ると、
「ーーーッ!?」
先程の恥じらいはどこに行ったのか、裸一貫で威風堂々の仁王立ち。
わずかに主張した胸部の頂点は辛うじて髪の毛で隠れているが、それ以外は何も纏っていない状態。
「ば、バスタオルはどうしたんだよ」
「何を言うか、妾は神だぞ。貴様が拭かぬか」
「その神設定はいいから。早く隠せよ!」
少女が風呂に入っている間に自分の体を拭いていたバスタオルを投げつけると、無駄に威張って腰に手を当てていたためガードが間に合わず、顔面にヒット。
「無礼者め。貴様には信仰心はないのか!」
「えぇい。仮にも神を名乗るなら常識を学んでからにしろ」
一悶着を終え、結局は麻倉が少女の体を拭かされる羽目になり、ぶかぶかのスウェットを装備させている。
挙句の果てに、
「乙女の肌を二度も見れたのだ、その油揚げを献上させてやる」
などと、かっぷうどんの醍醐味であるお揚げをカツアゲされていた。
見た目は髪色と相まって狐のような印象を与えていた。
「なぁ、お前迷子か何かか?警察行くか?」
「迷子ではないし。警察は知っている。あいつらは妾が神だと説明しているのに、お嬢ちゃん迷子?お母さんかお父さんの名前とか分かるかな?などと子ども扱いしてきよったから、神通力で懲らしめようかと思ったのだが、どうやら神の力を失っていてな」
(訳ありの奴を匿うってのは後々やばそうだなぁ)
学校生活も2年目に差し掛かろうとしている際に、自称神を名乗る少女との出逢い。
これが、麻倉の人生を大きく変えることになるとは、この時の彼は知る由もなかった。