【Recipe.1 ~神様の料理人~】 へっぽこ神様に餌付けを①
「拾え!」
現実やテレビでも目撃したことがあるであろう場面。
雨の日に段ボールの中に捨てられた動物と出逢う状況。その動物を見て、傘を開いてあげるなり、拾ってあげるなり、はたまた鳴き声で訴えかける動物を苦しい思いをしながら無視する。
僕が出逢ったのもそんなワンシーンだった。
---ただ、拾ったのは動物はなかったが。
「さて、どうしたもんか」
勢いで連れてきてしまったのは動物と呼ぶには人間らしく、人間と呼ぶには些か特殊な部位が頭についていた。
ずぶ濡れの人物?はバスタオルを渡す前にズカズカと部屋に入り、寒くなってきたため出しておいたコタツにそのまま入る。黒いフードから零れる毛先だけ茶色い燻んだ黄色い髪の少女と思しき人物?は、濡れているにも関わらずフードを取ろうとしない。
「酒臭くないし、酔っ払いじゃないけど。素面で濡れたままでカーペットとコタツっていうのはそれはそれで困る」
暖房器具のスイッチを入れたあと、別室の収納ボックスからバスタオルと着替えを取り出し、
「先にお風呂に入ったらどう?温まるだろうし」
「お風呂?あぁ、湯浴みだな、ありがたくいただくとしよう」
言うなり脱衣所に向かう少女を見送り、自分も体を拭く。
家賃5万5000円のワンルームマンション。2部屋と脱衣所、バストイレ別、日当たりも良好というかなりの好条件の物件に運よく滑り込め、1年。
生活にも慣れてきた少年であっても、まさか自分が人を拾う(半ば強引に拾わされた)ことになるとは思っていなかった。
バスタオルで髪を拭きながら冷蔵庫の中を覗く。
卵が5個、豚肉の細切れ、玉ねぎ、牛乳、冷凍ご飯。
キッチンには調味料と朝用のパン。
「買い足さないと、明日は何もないか」
元々、学校帰りにスーパーに寄ろうと思っていたが、生憎の天気に加え、思わぬ拾いものをしたせいで、近所の激安スーパーには歴戦の主婦達や貧乏学生に荒らされた戦場が残っていただけ。個人経営のスーパーのため利益を抑えたかなりの競争率を図るスーパーが近くにあるため選んだマンションだが隣人達も狙っているため、ライバルはかなり多い。
多少の金銭的な余裕があったとしても、2人分の食事代を出すのは懐が痛む。
「あぁあああああああ!」
「ーーーツ!?」
突如、浴室から聞こえた悲鳴に驚きながらも急いで向かう。