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中途半端のろくでなし  作者: 海深真明
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第1部 第2章(3)重大な見落とし

 何だか嫌な感じがする。悟郎は、男の巨体や雄叫びに怯えたわけではなかった。戦い慣れた感じがする。戦争という意味ではなく、個人対個人の、生き死にを懸けた戦いという意味で。 剣闘士のようなことをやっていた人かもしれない。しかも、戦いに自ら進んで身を投じ、その中に喜びを感じるような、そんな歪んだ感じがする。

 悟郎は負けるとは思わなかった。師匠と相対しているときのようなヒリヒリとした感じがない。けれども、無事で済むとは思えなかった。今はこの男と戦うべきときではない。


 悟郎は離脱を図る。

 しかし、向こうがそれを許してはくれない。先回りして、進路を塞ぐ。フェイントをかけてみたが、やはり離脱は難しそうだ。

 仕方がない、悟郎は覚悟を決める。

 中段に構えていた槍の穂先を上げ、踏み込むとともに男の頭をめがけて打ち下ろす。手慣れたように易々と盾で受ける。打ち込む場所を変えてみたが、同様に盾で防がれる。

 ならば、と頭を狙うと見せかけて、足元をなぐ。これも予期していたかのように盾で防ぐ。そして、槍をめがけ、男が剣を振り下ろす。速い! 悟郎は後退しつつ、それを躱す。

 悟郎は盾のない右側面に回り込もうとするが、男は向きを変え、正対する。何度か打ちかかってみたが、盾で防がれ、逆襲を受ける。力で押し切るには、体格差がありすぎる。盾で打ちのめされるのが関の山だろう。槍の間合を保つ。

 男は大声でがなり立て、悟郎を挑発しているようだったが、何を言っているのか分からず、ただただやかましいだけだった。


 男の打ち込みは早く、しかも正確であったが、片手で扱っているので剣筋は単調である。両手持ちの剣や刀の描く複雑な軌道に比べるべくもない。

 しかし、こちらの攻撃も相手に通用しない。消耗覚悟でやるには、まだまだ先は長い。


 万理と悟郎が事前に話しあっていたことだが、108名が仮に2名ずつトーナメント形式で戦うとすると、6戦もしくは7戦しないと優勝は決まらない。当然、悟郎が臨む戦いはトーナメントではないので、7戦して全勝すれば生き残ることができる、というものではない。あくまで目安、もしくは推測に過ぎない。

 悟郎がこれまでに殺した、もしくは戦闘能力を奪ったのは3名、現状はようやく中盤に差しかかったぐらいだろう。地面に倒れている者はざっと数えて、40名といったところだ。勝った者が次の者と戦うので、必然的に先に進めば進むほど勝負はより熾烈になっていく。


 ここで死力を尽くして戦えば、先の見通しは悪くなるだけだ。悟郎と同程度に考えて戦っているのであれば、ここでやり合うのはお互い得策ではないと考えないのか。あるいは、与しやすいと思われているのか、あるいは行動原理が違うのか。

 そこで、悟郎は自分の重大な見落としに気づいた。

 万理がいるから自分は生き残ることを考えて戦っている。しかし、万理がいなければ、勝ち残ったとしても、神の依代になって自分は滅びるだけだ。どのみち先がないのならば、好きなように戦って、好きなように死ねばいい。


 心臓が跳ねる。

 自分の考えに気を取られて、悟郎は相手の接近に気づくのが遅れた。頭を狙って振り下ろされた剣は辛うじて避けた。しかし、体勢が崩れたところを盾で殴られ、吹き飛ばされた。

 仰向けに倒れたが、倒れた勢いを利用して後転して膝立ちとなる。幸い槍も手放していない。転がりながら、相手の追撃をかわし、立ち上がる機会を窺う。が、相手もこれを好機とばかりに攻め立てるので、なかなか立ち上がることができない。


 そんな中、悟郎は背筋を這い上ってくるような不快な気配を感じた。盾を持った男の動きを警戒しつつ、後方に目をやる。すると、刀を上段に構えた男が間近に迫っていた。悟郎が気がついたと分かると、気合いの声を発し、刀を斜めに振り下ろしてきた。

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