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中途半端のろくでなし  作者: 海深真明
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第1部 第2章(2)悟郎は戦場へと降り立った

 悟郎の姿を見て、嘲笑っている観戦者がいる。無理もないかもしれない。悟郎が身に纏っているのは、いわゆるテッパチに戦闘服、タクティカルベストにブーツである。加えて、下腕と膝、すねにはプロテクターをつけている。にもかかわらず、携行している武器は肩に担いでいる直槍に、太刀、短刀で、ちぐはぐな感は否めない。

 そんな嘲笑に心を乱されることはなく悟郎は階段を上り、坂の降り口に着く。後ろでは錠がかかる音がする。後ろを振り向き、無言で手首を差し出す。警備員が手錠を外す。

 再度振り向き、地面を見据える。しばし目を閉じ、二、三度深呼吸する。

「さてと」

 そう口にして、悟郎は坂を下り始めた。


 悟郎が下りてくるのを見つけた男が、坂の下で待ち構えている。

 わざわざ不利な状況に身を置いて何をする気だろう? 場に慣れないうちに叩いてしまおうという魂胆なのか、あるいは、坂の途中で転んで、無防備のまま落ちてくるのを狙っているのか、はたまた、何も考えていないのか、悟郎には判断がつかなかった。しかし、やることは一つだ。

 警戒しつつ、タクティカルベストのポケットから十字手裏剣を取り出し、投げつける。ゴム製なので殺傷能力はない、が、牽制にはなる。続いて、棒手裏剣を打った。

 待ち構えていた男は、回転し飛んでくる十字手裏剣を手に持った得物ではじき、歯をむき出しにして笑う。と、その男の眼窩に棒手裏剣が突き刺さる。男は絶叫し、得物を手放し、目を押さえる。

 そのころには、悟郎は地面に降り立っていた。彼我の距離があまりなく、槍を振る間がない。悟郎は男の股間を蹴り上げた。男は泡を吹き、地面に倒れた。ピクリともしない。

 気を失っただけなのか、それとも死亡したのか確認しようとしたが、別の男が駆けつけてきたので悟郎はその場を離脱した。


 作戦、というほど大層なものではなかったが、悟郎は一撃離脱を心がけた。倒せそうな相手なら、多くとも数撃で倒し、止めを刺すことに拘泥しない。見るからに厄介そうな相手は、そもそも対峙しない。後は、臨機応変に対処する。とにかく、居つかないようにするのが生き残る唯一の方法だと考えた。

 悟郎は念のため万理に意見を求めたが、万理の考えも同様だった。


 悟郎が向かう先に、倒れた相手を仕留めようと躍起になるあまり、悟郎の接近に気づいていない男の後ろ姿があった。他に近づいてくる者がいないのを確認してから、悟郎は足音を潜めて進み、男の尻を槍で刺す、そして左手を軸にして穂先を横凪にする。悟郎の手には、肉に刺さり、肉を裂く感触と、服が穂先に引っかかって裂ける感触が伝わってきた。

 男は悲鳴を上げて転がり、のたうち回る。その男が仕留めようとしていた男の方は、ほとんど息も絶え絶えの様相だった。

 楽にしてやろうかと悟郎はちらと思った。しかし、こちらに接近してくる者の気配があったので、そちらに対処せざるを得なかった。男は鎧兜を身に纏っていた。この者も、こちらの世界に呼ばれてやってきたのだろうか。


 悟郎が持つ槍の長さは3メートル弱である。悟郎に接近してくる男が手にしているのも同じく槍であったが、悟郎の槍よりも1メートルほど短く、間合いの差は歴然としている。にもかかわらず、男はなおも近づいてくる。

 悟郎は槍の穂先を上げ、次いで、男の頭めがけ打ち下ろした。男はその動きを予想しており、兜に当ててしのぎ、自分の持つ槍で悟郎の槍を巻き上げようとするなど間合いを詰めようとする。

 しかし、悟郎は冷静に槍での殴打をひたすら繰り返した。必要とあらば後退をして間合いを保った。

 致命傷にはならないとはいえ痛い、脳しんとうを起こす危険性も無視できない。それに頭をひたすら殴打されるというのはいい気がしない。男は嫌がる素振りを見せる。それを感じた悟郎はなおも殴打を繰り返し、男が逃げ腰となったところで間合いを詰め、石突きで男の顔面を狙った。

 骨の折れる鈍い音がし、血を流しながら男は仰向けに倒れた。その拍子に男は槍を手放した。

 悟郎は不用意に近づこうとせず、上を向いている手のひらを突く。次いで、鎧と兜の隙間を突き、首筋を裂いた。血が噴き出すのを確認したが、致命傷となるかは微妙だ。苦しませずにとどめを刺してやりたいところだが、そうも言っていられない。また、別の男がこちらに向かって来るのが見えたからだ。


 その男は、身の丈2メートルに迫ろうかという大男だった。しかも、筋骨隆々としている。ヨーロッパ中世風の鎧兜を身につけ、左手には方形の盾、右手には直剣を握っている。

 男は雄叫びを上げながら悟郎に迫ってきた。

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