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中途半端のろくでなし  作者: 海深真明
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第2部 第1章(1)部屋の天井

申し訳ございません。更新をし忘れておりました。

「こんなに体力なかったっけ?」

 稽古場へと向かう坂の途中、立ち止まりながら悟郎は幸乃につぶやいた。動悸が激しく、休憩しながらでないと進めない。

「病み上がりだから仕方ないよ」

 幸乃は慰めの言葉をかける。



 こちらの世界に戻ってきたその日、美緒の勤務する会社において一時間ほど事情聴取を受けた。幸乃も悟郎とは別室で事情聴取を受けていた。詳しい内容は後日ということで悟郎は解放された。一方、幸乃は美緒の父が身元保証人となることで、悟郎と同様に詳しい話は後日ということで解放された。

 そして、悟郎は両親と兄が待つ家へと美緒と幸乃とともに帰ったのは夕方になってからのことだった。悟郎と幸乃が事情聴取を受けている間、美緒が二人の着替えを買ってきてくれていた。


 玄関では、母にはただただ泣かれ、父は「お帰り」と言ったのみで無言で怖い顔をしている。話をしない両親に代わり、兄が悟郎を叱った。

「お前はさ。心配ばかりかけるんじゃないよ。これに懲りたら、ちっとは自重しろよ。母さんなんて眠れずに精神科に通って睡眠薬処方してもらっている。親父だって何も言わないがお前がいなくなってからずっと仕事を休んでいるんだ。磐境さんやお前の師匠にだって迷惑をかけて」

 目に涙を浮かべながら話す兄の姿を見て、悟郎は反論できなかった。

「ごめんなさい」

「とりあえず上がれ。まだ説教は終わってないからな。磐境さんと、ええとあなたも散らかってますが、どうぞ上がってください」

 目元を拭いながら兄が言った。


 ダイニングテーブルには所狭しと食べ物が並べられている。どれもこれも悟郎の好物ばかりだった。

「ごめんなさい。ごめんなさい」

 悟郎は立ったまま、子どものように泣きじゃくった。その姿を見て、母が悟郎を抱きしめ、一緒になって泣いた。悟郎の父も、美緒も幸乃も、もらい泣きをした。


 最初の方こそ、神妙にも兄の小言にも反論せず悟郎は食べていた。しかし、父や兄に酒が入り、悟郎を責めるのがしつこくなった辺りから、悟郎は反論し始める。それは火に油を注ぐ結果となり、さらに責められる結果となった。最後には悟郎はむすっとして何も話さなくなった。

 家族の関心はやがて、美緒と、美緒が連れてきた幸乃のことに移り、一人ふて腐れる悟郎は放っておかれた。


「何だかすごく眠い」

 悟郎はぼそりと言った。

「お風呂沸いているから、入りなさいな」

「うん。そうする」

 母に言われて、浴室に向かうために悟郎は席を立とうとした。しかし、体がふらつきうまく立てなかった。異変に気づいた美緒が悟郎を支え、悟郎の額に手をやる。

「すごい熱です」

「疲れがどっと出たのかしら? 風邪なんか引いたことないのに。猛郞、悟郎の部屋まで運んであげて」

「何で俺が!」

 悟郎の兄、猛郞は文句を言いながらも母の言うとおりにした。美緒も手を貸した。


「あぁ、僕の部屋の天井だ」

 ベッドに仰向けに寝転がされた悟郎はつぶやく。

「そうだぞ。お疲れさん。少し休め」

 小言は言っても、基本的に兄弟仲はいい。猛郞が悟郎を労った。

「うん。そうする」

 そんな猛郞の指示に悟郎は素直に従った。


「あれ? 美緒ちゃんは?」

「悟郎の看病。まぁ二人きりにさせてあげようかな、と。馬瀬さんは嫌がるかもしれないけれど…」

「いえいえ、そんな…とんでもございません」

 幸乃が慌てて否定する。その様を見て悟郎は、

「満更でもなさそうだね」

 幸乃の顔が赤く染まる。

「こら! 女の子をいじめないの! ごめんね、幸乃ちゃん。猛郞が馬鹿なこと言って」

「そんな。みっともないですよね、横恋慕みたいで…」

 幸乃は恥ずかしそうにしながらも、悟郎への思いを口にした。

「おぉぉ! カミングアウトしたよ!!」

「いい加減にしなさい!」

「はい。すみませんでした。お母さま」

「ありがとうね、幸乃ちゃん。危なっかしい子だけれど、これからも仲良くしてあげてね。…そうだ! 今度、悟郎と美緒ちゃんがルームシェアするけど、一緒にシェアしちゃいなさいな」

「えぇ!?」

「一人も二人も一緒よ。だって、幸乃ちゃんのおうちまだ決まってないんでしょ?」

「えぇ、まだ何も決まっていないのは確かですが…」

「じゃあ、いいじゃない?」


「悟郎が美緒さんとルームシェアするだなんて聞いてないぞ! それに、当事者の了解もなしに何を決めているんだ!」

 悟郎の父は、それまで黙々と手酌で飲んでいたが、悟郎のルームシェアという自分が関知していない事態が進行しつつあることを知って、黙っていられなくなった。

「だってあなたには教えてませんもの。それに、当事者って言ったって、このことは悟郎も知りませんよ。だって、わたしと美緒ちゃんで決めたんだから。美緒ちゃんだって、きっとそのつもりよ。

 あんな危なっかしい子、一人にしておける訳ないでしょ。今回のことでよく分かった。子どものころから生傷が絶えない子だったけれど、今回みたいな思いはもうこりごりよ! お願い、幸乃ちゃん、悟郎を支えてあげて!」

 最後の方は、泣きながらだった。だから、誰も何も言えなくなった。



 家に帰らなければならず、また、種々の用事を済ませなければならない美緒に代わり、幸乃が泊まり込みで悟郎の看病をした。

 熱が下がり、悟郎が曲がりなりにも外に出られるようになったのは、三日後のことだった。

書きためていたものがなくなりました。

読んでくださった方々には申し訳ございませんが、誠に勝手ながら以降の更新については不定期とさせていただきます。

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