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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

村焼キノ罪、再生ノ功罪

作者: 柴野まい

 私は罪人です。

 罪状を端的に言うと、生まれ育った村を焼きました。

 理由? そんなものは単純です。嫌だったから、その一言に尽きます。

 罪悪感? そんなものありません。

 考えてもみてください。


 村ぐるみで犯罪を行い、人を人と思わぬ悪鬼のような所業を、何の恥ずかしげもなく自慢する、そんな村。


 子供はそれを当たり前と思い、大人は知りながらも隠し通す。


 嫌でしょう?少なくとも私は耐えられませんでした。


 だから、私は村を焼きました。

 村も、家も、村人の作った何もかもを焼きました。

 村人は抵抗しましたが、村四方八方を炎に囲まれてはどうしようもなかったのですね。


 皆、死にました。


 私の親も、隣人も、村長も、幼子も。

 私以外全て死に絶えました。

 火で息絶えなかった方々は、私が直々に手にかけました。

 燃えなかったモノは、粉々にして埋めました。


 死を振りまいた私は、世間からすると立派な罪人です。

 私の価値観でも罪人なのですからね。

 罪人を断罪するために人は必要でしょう?

 だから、1人だけ、殺さず生かしておきました。


 小さすぎては、何も覚えていないでしょう。

 大きすぎては、私は瞬く間に殺されてしまうでしょう。


 私は、すぐに死ぬわけにはいきません。


 だから、小さな男の子を断罪者として選びました。

 

 その子の目の前で、親を殺しました。

 その子の親は、親としては立派な最期でしたよ。

 子供を庇って死んだのですから。彼らも本望でしょう?


 その時の子供の顔は見ものでしたよ。


 悪魔! と私を罵り、親の死体の前でわんわん泣いていました。

 私を捉えるその双眸は、憎しみに染まっていました。

 思わず、可笑しくて、笑ってしまいました。


 それを君が言いますか?

 この村で育った君が。

 あのおぞましい村で育った君が。

 普通ではないことが当たり前と思っていたであろう、君が?


 ですが、今から君は、私のものなのですから。

 その憎しみを、ずっと忘れないでくださいね?

 私を断罪するために、生き延びてくださいね?


 気絶させた少年を抱えて、村の外のあばら家に避難します。

 火は村の中だけになるようにしたつもりですが、火の粉がこちらに降りかからないとも限りません。


 火が村の何もかもを焼き尽くす様を、私は心の底から嬉しく、喜ばしく思いながら、眺めていました。


 燃えて無くなって、そして再生が始まるのです。

 この汚らわしい名もなき村は、私が変えて見せましょう。


 それが、私の功罪となることを願って。


 火が消えました。

 そして、君は目覚めましたね。

 村の跡を見て、またわんわんと泣きましたよね。


 それを笑顔で見ていた私は君にとって悪鬼でしょう? 許せないでしょう?


 私を忘れないでいてくれる君に、私は言い聞かせましょう。

 私を憎め、私を許すな、私が君の両親の仇だと。

 呪縛のように。

 何があっても、忘れないように。

 だから、君に諱を授けましょう。

 いつか私を断罪してくれると願って。

 




 共に過ごしたのは、1年くらいでしょうか。


 色々ありました。

 寝首を掻かれそうになったり、事故に見せかけて殺されそうになったり。

 いやはや、意外と子供も知恵が回るものですね。

 それでも全て無意味でしたがね。

 子供ですから、1人では生きていけません。私が扶養者でした。

 君の目は荒んでいましたよね。

 とてもとても面白かったです。蔑んだ目がだんだん緩んでいくのですから。

 ですが、これで、私を忘れないでしょう。



 別れる日がやってきました。

 君は初めての街で、不安そうにこちらを見ていましたね。

 私が君の名を呼び、じっとしているように、と言えば素直に従いましたね。


 そんな君に私は断罪されたいのです。

 あの村で育った、異常で、おかしくて、愚かで、優しい君に。


 君を選んで正解でした。


 だから、私は口にするのです。


「私は君の両親の仇で、君の故郷を滅ぼしたのです。それを忘れないで、いつか、私の元に来てください。

 楽しみにしていますよ、ユリウス」


 私が君につけた名を呼ぶと、憎悪の炎がまた灯されました。

 それでいいのです。


 ユリウスを置いて、私は立ち去りました。



 *****


 

 10年くらい経ったでしょうか。

 私は村を作り変えました。

 醜さをこそぎ落とし、キレイにしたつもりです。

 新たに家が建ち、醜さの象徴は見えなくなりました。

 人が訪問してくるようになり、村というちっぽけな名前は忘れ去られました。

 笑顔が見られる、素晴らしい場所になりました。

 ですが、真の意味でここは浄化されません。


 私がここにいるのですから。

 罪人がいる限り、ここはずっと汚いあの村です。



 私はあのあばら屋で、ぼうっと火を見つめていました。


 すると、扉が開いて、少年が入ってきました。

 懐かしい顔でした。

 ああ、やっと来てくれたのですね。


「おかえりなさい。さあ、私を殺しなさい」


 君に殺されるならば悔いはありませんね。

 ああ、私は断罪されるに値する人だったでしょうか。

 是非ともそう思われたいですね。


 ありがとう、やっとこの村も生まれ変わってくれます。

 再生という功罪に少しでも貢献できたのならば、嬉しいです。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 雰囲気が好きです。 [一言] 読み手それぞれに結末を想像させる。 そういった結末なのですね。 「貴女が望む限り、僕は貴女を殺しません。貴女が生を望み、生きる喜びにその身を満たした時にこそ…
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