コクるひと、ノロケるひと。
アンリさま主催「告白フェスタ」、出したいと思っていたものが間に合わなそうなので、とりあえず掌編で参加です。
女子学生が物語る。――
大学三年生の夏、六人の男女グループで旅行に出かけた。文化遺産の神社の門や自然遺産の真っ白な滝を見て、ハイキングコース近くの一般道をちょっとしたハイキング気分で歩いてみたりして、わたしたちはへとへとに疲れてホテルにチェックインした。
温泉の湯けむりを抜けて、きらきらした夕食をお腹にいれると、さっきまでの疲れはきれいさっぱり姿を隠して、わたしがすました調子で「あんたら若いね」と言ってみると、「お前もな」と、仲がよすぎてちょっと癪にさわる男女一組が声をそろえてツッコミをいれた。
夜は男子の部屋へ乗りこんでババ抜きをした。
ひとりの男子が飲みすぎて、「酒にあたりたい」というので、例の癪にさわる男子が付きそって夜風にあたらせにいった。女子のほうが「あたしも行くう」と追いかけて出ていく背中に、わたしが冗談めかして「とっとと行きな」と声をかけると、残った二人に「性格悪いな」と、明らかに聞こえるひそひそ話でからかわれた。
出ていった三人から「クレーンゲームで遊んでいる」というメッセージが届いたころ、部屋に残った三人はババ抜きをつづけていた。「ゲームコーナーってまだ開いてんの」「もう閉まるだろ」ふたりがそういうのでふと時計を見ると、あと五分で十一時というところだった。
ババ抜きをやめてゆるゆると談笑に移行すると、わたしでないほうの女子がこんな話題を持ちだした。「好きな異性のタイプは?」―― 異性という言葉を使いながら、明らかに「女性のタイプ」をきいていた。それはきかれた男子にもわかったようで、わたしのほうへ苦笑してみせた。
「どんなに仲良くしていても、俺の罪を見て知ったら迷うことなく関係を絶てる人」
それが男子の答えだった。
ほどなくして、出かけていた三人が帰ってきた。みやげにと、なんのキャラクターかわからないぬいぐるみを渡された。
翌日も六人で観光をして、夕方の電車で地元へ帰った。わたしは疲れて眠ってしまい、地元の駅でみんなに起こされた。
***
旅行のあと、わたしたちは六人で集まることがなくなった。けれどわたしは、みんな就活で忙しくなったのだと思って気にも留めなかった。代わりにわたしには彼氏ができた。旅行のときに好きなタイプを答えた男子がわたしに告白して、付きあうことになった。
あのときのことを思い出して、わたしは彼にきいてみた。「罪を知ったら関係を絶てる人って、あれなんだったの?」―― 彼と付きあっているわたしには、そんな自覚はない。
「ああ……」彼は苦笑して、あっさりと告白した。「あれ、お前のことじゃないよ」
「わたしじゃないって、え、どういうこと?」
「質問してきた彼女だよ。まあ、異性に限定しなければ、あの飲んだくれと仲良しバカップルもだけど」
「……は?」
「お前、いつも電車で寝るだろう。俺はそれを知ってたから、帰りの電車で、みんなの前で罪を犯した」
「旅行のときの話?」
「お前の寝顔、ずっと撮ってみたいと思ってたんだよなあ」
「……はあっ?!」
初耳の重大情報に、わたしは思わず声を荒げてしまう。
「あいつらはやっぱり友達だった。俺にその気があると知ったら、素直にひいてくれたよ。いや、だってあいつらがいると、どうも大胆な付きあいができないからな」
そういうと彼は、大胆な笑みを浮かべた。
その勝利が気にくわなかったから、わたしは彼に絶縁状をたたきつけて、彼とのいっさいの連絡を絶った。―― 三日経って、何事もなかったかのようにみずから絶縁状を反故にするまでは。
わかってると思うけど、フィクションですよ。