第4話 地獄絵図
ーーモニターから悲鳴が轟く。
モニターが状況を詳細に映し出していく。
巨大な生物の周りを飛んでいた物は人間だ、それもみんな中学生くらいの女子達のようだった。
「コアはまだ見つからないのか?」
「はい、体格が巨大ですのでまだ暫く掛かるかもしれません」
コア? コアってなんだ、それにあんな巨大な生物をどうやって倒すんだ?
......そうか超能力があれば簡単に倒せるじゃないか。
この力は意思によって操作できるサイ粒子を使って、分子を分解したり、合成したり比較的自由な事が出来るはずだ。
サイ粒子の使い方によってはもっと何か出来るかもしれない。
「彼女達は何をしてるんだ? 空を飛んでいるってことは能力者なんだろ、だったら力を使って倒せば良いじゃないか?」
オペレーターらしき女性は、不思議そうな顔をする。
「藍川教授、この人たちは知らないんですか?」
「あぁまだ教えていない。其れにこの子達は今日来たばかりなんだ、そしてただの一般人」
それを聞き女性は慌てふためきだす、
「きょっ、教授! だっ大丈夫なんですか!? 一般人なんて連れてきて!」
「安心しろ、能力者だ。ついさっきまで一般人だったが」
「はぁー、そうなんですか。それはそうと何でその娘は奇石剤を持ってるんですか?」
「超能力試験の途中だったんだ、良い機会だから連れてきた。それとこの子達も仲間に加えようと思っている」
ーーまた悲鳴が響く
「ニャーーーーー」
ネネコの声だった、
「くっ蜘蛛だにゃー、気持ち悪いにゃー、帰りたいにゃーー」
にゃーにゃーやかましい! いつもあぁなのか? 初めてあった時は普通に話してたじゃないか。
「ネネコさんは他のみんなのサポートをお願いします」
そうは言ってもネネコは完全に嫌がっている、猫みたいなくせして本当に蜘蛛が苦手のようだ、それも仕方ないだろう、モニター越しとはいえそのデカさと蜘蛛特有の容姿が何とも不快な気分にさせる。
そんな、たじろいでしまっているネネコに教授は喝を入れる、
「ネネコ、これは遊びじゃない実戦なんだ、しっかりやれ」
「にゃっ......はいっ」
俺は心臓が凍るかと思った、なんだその抑揚のない冷徹な声は。
怒らせると怒鳴るのではなく、逆に声のトーンが低くなるパターンの奴だ、俺の苦手なタイプ。
と恐怖を感じていた俺だったが、それは悲鳴でかき消されてしまった。
「キャーーー」
「ニャーーー」
ネネコと他一名、蜘蛛の攻撃が直撃したのだ。
動きは鈍いのかと思ったが八本ある足の一本を器用に使って素早い攻撃を放っていた。
二人が地面に叩き付けられる。
次に蜘蛛は糸を吐き、一人をがんじがらめに拘束した。
「うぅっ、うゴッ」
苦しそうに喘ぎ声だけが聞こえてくる。
おいおい結構やばいんじゃねぇか、あれ息できんのか。
抱きかかえ退避させようとしているが、上手くいってない様子だった。
「ダメだ、糸が蜘蛛の口に繋がっているんだ糸を切らなきゃ助からない」
蜘蛛はのそのそと獲物に近づいていき、捕食できるであろう位置にまで来てしまった、このままじゃ喰われる!
事態は最悪の方向に進んでいく。蜘蛛が彼女の足をその強靭な顎で砕き、咀嚼する。そして腹、胸、顔と順々に喰っていく。
周りの人たちが蜘蛛に攻撃しているがまるで効いている気配が無い。
「うぁぁぁーーー」
「あぁぁーーー」
「イャーーー」
悲鳴が轟く、怒りがこみ上げてくる。
あの時と一緒だ、俺の目の前で繰り広げられる惨劇、そして俺は何もできない。
無力だ、非力だ、だが今は違う、超能力を手にしている今の俺なら......
「俺が......倒す」
安っぽい正義感と現状を全く理解できていない、あまりにも愚かな意思を表明した。
それに対して教授は冷静に、冷徹に判断を下す、
「駄目だ、君を行かせるわけにはいかない。たとえ行ったとしても無駄に死者を増やすだけだ、ここで見ていてもらおう」
「何でだ! 俺は超能力が使える、彼女達も使えるんだろ! なのになんで、あんなに苦戦しているだ! 力を使えばあんな奴、簡単に倒せるだろう!」
浅はかな考えだった、自分を救世主か何かと勘違いしているのか、まさに愚の骨頂。
教授は指示を出す、
「コアを見つけるんだ、今までの傾向からして頭部の辺りにあるはずだ」
......思い出した、そうだ最初に言っていたじゃないか、"コア" 俺はその意味もそれが何なのかすら知らない、もしコアが重要な存在ならたとえ駆けつけた所で何が出来ただろうか。
彼女達の足手まといになるだけじゃないか、それに力が使えるであろう彼女達が苦戦しているのは何か単純な理由があるだけじゃないだろう。
馬鹿だった、今になって自分の愚かさに気付き呆れて物も言えない。
1人が大きな刃を作り出し蜘蛛の頭部を切り落とす、他の人も刃を作り出し頭部を切り刻んでいく。
直後、斬り落とされた頭部は霧散していき変わりに本体から頭部が再生していった。
「何だよ.....それ」
また一つ自分の自分の軽薄さを思い知った、頭部を切り落としても死なないそれも再生までする生物。「ははっ」乾いた笑いが溢れる。
「頭部にコアらしき感触はありません!」
「何!」
驚嘆の声を上げる教授、想定外の事態が起きたらしい。
「体内に有るとなると、かなりの時間を要すると思います。粒子切れが心配されます」
また知らない単語が飛び出し、現状を正しく把握できていない、もどかしさが俺のイライラを募らせていく。
1人が地上に降りていき、仲間であろう人物から何かを受け取る。......あれは......さっき奇石剤と言っていた物だ。
それを自分に打ち込み苦しみだす。悲鳴も上げていたがネネコの時よりも時間は短く、酷くは無かった。しかし、その隙を狙ってか蜘蛛は彼女に向けて糸を放つ。
弾丸の如く速いその糸は、彼女の頭部を容易く射抜いた。木っ端微塵に吹き飛んだ彼女の頭部が四方に散乱する。その光景をそばで見ていた人物は腰を落とし悲鳴を上げる。
「いっ、イヤャャーーー」
直後、彼女の頭部もまるで豆腐であるかのように糸が貫通していき吹き飛ばす。即死だ。
するとネネコと一緒に吹っ飛ばされていた彼女が、巨大なハンマーを顕現させていた。彼女の背丈の2倍はあるであろうそれを、蜘蛛の足に目掛け、遠心力を利用しながら与えた強烈な一撃は、金属音のような音を響かせ耳を劈く。
しかし蜘蛛は体勢を崩しもせず、逆にその足で彼女は体を貫かれる。地に落ちた彼女を蜘蛛はトドメを刺すかのように、頭部を踏みつける。
ネネコは気絶しているようだ。もう一人の人物は戦意損失しているようで、蜘蛛の前から動かない。
蜘蛛はそんな彼女を、顎で体を抑え頭の方から口に運ぶ。骨が砕ける音が、よりその残酷さを漂わせる。
妹はというと、さっきから耳を塞ぎながら後ろの方で体を震わせながら座り込んでいる。無理もない、こんなものを見せられているのに平然としてられる方がおかしい。そう思いながらも俺はさっきからあの蜘蛛を倒す事だけを考えていた。
「思い出すんだよ......あの蜘蛛を見てると......あの時の化け物をっ!!」
俺はあの時の化け物が醸し出していた雰囲気と、似たようなものを直感的に感じ取っていた。あの蜘蛛もあれと同類、そう思うことで俺は憎悪を膨らませていった。
「どうやったらあいつを倒せる?」
教えてはくれないだろうなと思いつつ、聞いてみると教授はすんなりと、呆気ないほど簡単に教えてくれた。
「コアにサイ粒子を一定以上、そして迅速に送り込めば良い」
「コアはどこにある?」
教授は考える仕草をしながら答えてくれた。
「いつもならその生物の頭部、脳みそ辺りに有るのが普通なんだが......其処に無いとすると体内の何処か、という事になるかな」
俺が知りたかった情報を聞き出す前に、教授はコアに関する情報を、更に詳細に語ってくれた。
「ちなみにコアの形は千差万別だが大体は、球形、若しくは立方体。共通する事は、種類をハッキリと判別できる多面体の構造を取る事だ。色は黒く、水晶みたいな物だ」
俺は教授の話に耳を傾けながらひっそりと、力を使ってどうやったら自分の体を浮かすことが出来るか、試行錯誤していた。
器用に見えるがそうじゃない、サイ粒子を扱うコツを掴めば、自分の手や足を動かすのと同じような感覚で使う事が出来たからだ。目では視えないが自分の体から無数の手が生えている気分だ、しかも『分子』ですら扱えるような手だ。
注意したいのは、あくまで無数の手がある『感覚』があるだけであって、サイ粒子の実態はただの素粒子である。
「これならっ!」
自分の体をその視えない手で、すくい上げるイメージを極限まで思い描く。
ーーフワッ
......出来た、浮けたぞ!
超能力の才能があった......とでも言うべきか、案外すんなり出来てしまった。それによりさらに調子に乗って、空中を飛び回ってみようと考えたがこれもあっさりクリアしてしまった。
「ーージンくん!」
教授は愕然とした表情でこちらを見ている。妹は依然として耳を塞ぎ、座り込んだままだった。
「コアを見つけて、それにサイ粒子を送り込めばいいんだろ。簡単な事だ、俺が倒してきてやる!」
俺は天井を見つめ、そこに穴を開ける。なーに難しい事はない、天井を手で掘るイメージをすれば簡単に出来た。
ーーーーシュッ!!
空が見えた所で一気に急上昇して外に出るが、太陽光で目がくらんだ。山が邪魔だったため、山を見下ろせる高さまで浮上していく。
見てはいけないと思いつつ、下を確認してみれば落ちれば即死は免れないであろう高さだ。股間がシュンとする。
多少息苦しかったが辺りを見回せば、奴がいた。蜘蛛だ。ずいぶんと小さく見えたが近づけばモニターで見た姿同様、随分とでかかった。ビル5階分はあるであろう巨体。
俺は原始的な感情を抱きながら蜘蛛と対峙する
ーー殺す!




