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第2話 好奇心は猫をも殺す

 ーー超脳研究室の扉を開く。


 ーー自分の目にまず飛び込んできたのは、人物ではなく奥に鎮座している黒い何かだった。

 周りには実験器具や色んな機器が沢山あった他に、人が二人。

 それらは視界の周りでぼんやりと浮かんでいただけで、俺は黒い物体に釘付けになっていた。


 近づいて見てみると隕石の様な巨大な鉱物だった。

  しかし何故だろう不思議と惹きつけられる。

目が放せない、まるでこの鉱物の中に吸い込まれていくような初めての知覚に戸惑いを覚える。


 ーー唐突に身体に雷が打たれたような衝撃が走る、それも二回。

 直後全身は鳥肌がたち、背中が激しくゾクゾクする。


 耐え難い感覚に俺は、座り込む。

 するとさっきまでの感覚が嘘のように消えていった。

呼吸を整える。


「なっなんだ今のは!」


 申し訳なさそうに、こちらの顔を覗き込む彼女がいた。


「ゴメン......大丈夫?」


「あぁ今は大丈夫だ、それよりなんださっきの感覚は何をした!?」


「ちょっと肩を叩いた、だけだよ。ずっとそれを見てるから」


 さっきまで研究室内を見て回っていたマリが、駆け寄ってきた。


「どうしたの? お兄ちゃん大丈夫?」


「あぁ大丈夫だよ、ちょっとビックリしただけだ」


 マリに心配はかけまいと平常心を装ったが、当の本人は首を傾げていた。


「君は、感覚が鋭敏らしいね」


 ずっと、見たこともない複雑な形状をした顕微鏡を覗き込んでいた人物がそう答えながら、近づいてくる。


「自己紹介が遅れたね。僕はこの研究室の教授を勤めている、藍川京介だ」


「俺は霧島仁です」


「ジン君はどうして、此処に来たのかな?」


「超能力試験を受けに来ました」


 教授は怪訝な顔をしていた。


「何処でそれを?」


「普通にネットで検索してたら出てきたんですけど......」


 ーー間髪入れずに質問される。


「検索ワードは?」


 何故そんな事を聞いてくるのか、理解できなかったが正直に答えた。


「超能力、実在、で検索しました」


 教授は目にも留まらない速さでキーボードを打ち、何かを検索し始めた。

 教授は明らかに困惑した表情を浮かべていた。


「此れか。成る程、初期の頃のがまだ残ったままだったんだね、削除依頼を出しておこう。」


 意味が分からなかった、初期の頃? あの募集は昔のものだったという事か。

 削除依頼を出すことは、俺たちは来てはマズかったって事か、アカデメイアの地図にも載っていない研究室なんだ、何か裏があってもおかしくない。

 表にも研究室らしい表記はなかった、案内されたからすんなりと入ってしまったが、迂闊だった。


 それにさっきの衝撃的な感覚といい何かが変だ、この研究室は危険かもしれない。

 マリを危険に晒すわけにはいかない、今はこの場を立ち去ろう。


「昔のだったんですねそうとは知らず、すみませんでした失礼しーー」


「ーーネネコ、ドアをロックしろ......」


「はいですにゃ」


 ーー何!


 開かないっ!


「超能力試験について知られたからには、タダで返すわけにはいかないよ。丁度欠員が生じていたところなんだ、君たちには試験を受けさせてあげよう」


 なっ何を言ってるんだ? それに何で急に猫語みたいな喋り方をしてるんだ彼女は? 何をされる......いやまずは落ち着け、冷静に考えるんだ。


「マリ!こっちへ来い!」


「うっうん!」


 マリは何が起きているのか理解出来てないでいるらしい、ただただ困惑している。


「そんなに身構えないでくれ、別に危害を加えるつもりは無いよ。それに君たちは超能力試験を受けに此処に来たのだろう?」


 そうだ、その通りではあるが安全が確保出来ない。

 こんなにも怪しい研究室だとは思わなかった、それにあの感覚を思い出すだけで呼吸が荒くなる。

 俺には何かをされている、他に何をされるか分かったもんじゃない。

 あれも何かトリックがあるのだろう、スタンガンの類なのか分からないが。


「......何をするんだ?」


「言っただろう、超能力試験だ。こっちへ来たまえ」


 教授が本棚を動かすと後ろには扉が現れた。


「こっちだ、付いて来たまえ」


 仕方無い、付いていく意外に選択肢がない。

 扉を開けた先には階段があった、地下に続いているのだろう......意を決して降りていく。

 マリの手は離さない。


 ーーーーーーーーーーーー


 地下にあったのは実験場だった。

 どれくらい歩いただろうか、30分は超えていると思う。

 床も壁面も天井も真っ白な、円形の実験場だ。

 そして反対側の壁には大きなモニター、そしてその下には扉がある。

 反対側の扉はどこに繋がっているのだろうか? 教授はこちらを一瞥し「此処で待っていたまえ」と言い残し、ネネコと呼ばれていた彼女と一緒に反対側の扉の中に消えていく。


 ポケットからスマホを取り出し、電波を確認するが

 "圏外"の文字、当然だここは地下深く電波が届くわけがない。

 圏外という単語が絶望の二文字に置き変わる、これから何が起こるのか正直不安だ。


 マリはというと流石にこんな場所に連れてこられたために、怯えているようだった。

 肌寒いからか恐怖からか、それともその両方が混ざり合っているのか身体を小刻みに震わせている。


「お兄ちゃん、ここどこなの?」


 声も震えていた、俺はなるべく言葉を選びつつ、


「大丈夫だよ、すぐ帰れるよ」


 質問の答えにはなっていない。

 俺も内心、動揺していたのだろう。

 そしてこの時の俺は、自分の声が震えていた事に気づいていなかった。


 しばらくすると扉が開き彼女が出てきた、両手には注射器。

 針自体は細く小さかったが、本体が意外にも大きく恐怖を覚えた。


「ではこれを体内に打ってもらうにゃ」


 俺とマリに一本ずつ注射器を渡された。

 中にはドス黒い液体。


「何なんだコレは?」


 モニターに教授が映し出される。


「その説明は、僕がしよう」


「さぁ教授の講義のお時間にゃ、耳をかっぽじって良ーく聞くにゃ」


 俺とマリは顔を見上げてモニターに注目する。


「まずは簡潔に延べようか、その液体にはジンくんが私のラボで釘付けになって見ていた鉱物の粉末を溶かし込んだものだ。そしてその穿刺針を血管に穿刺し注入すれば終わりだ、それで超能力は得られる」


 俺の中には疑問だらけだ、この液体を体内に注射すれば、それで超能力が得られると言う訳か。

 失笑。

 俺は物理学、化学、生物学の知識が人並み以上にはあると思っている。

 今の時代、正しい科学知識が無ければ何も判断出来はしない。

 高度な科学により支えられている現代、科学的知識がなければ簡単に騙される。


 これを食べれば健康になる、この特殊な水を飲めば体に良い、肉を食べるのは良くない。

 色んな謳い文句があるが、これもその類だ。

 コレを体内に注射すれば超能力が得られる......誰がそんな事をおいそれと信じるものか、俺はそんな傀儡には成り下がらないぞ! たとえそれが権威あるアカデメイアの教授だろうと。


「質問してもいいか?」


「何かね」


「コレにあの鉱物の粉末が入っていると言うのなら、あの鉱物が何なのか答えろ」


「良いけど、君に理解出来るとは思えないよ。其れでもいいのかい?」


「答えろ」


 当惑した表情を浮かべている、俺は言葉を付け加える。


「科学的な知識ならある、科学的な思考も身につけている。嘘をつけば分かるぞ」


 俺なんかが教授に向かってなんて事を口走っているだ。

 俺なんかより教授の方が科学に対する造詣は深いに決まっている、教授になることがどんなに大変かも俺は知っている。

 これが終わったら全力で謝罪だな、無事生きて帰れたらの話だが。


「そうか、ならばそのまま話そう。その鉱物を構成しているものは単独の元素から成り立っている。その元素はウンビニリウム304と呼ばれているものだ、僕は"奇石キセキ"と読んでいる」


 コレを俺はどう判断すれば良いのだろうか、ウンビニリウム304はまだ合成に成功していない元素のはずだ。

 ニュースにもなっていない、動揺する。

 想定外の返答が返ってきてしまった。


「それはまだ合成に成功していない元素じゃないか、何故そんなものが研究室に、しかも堂々と。嘘だろ」


「ウンビニリウム304の事を知っていた事は褒めてあげよう。だが僕は合成されたウンビニリウムを手に入れた訳じゃない。自然界で産出したものを手に入れただけだよ」


 自然界だと、ウランより重い元素は半減期により消滅し地球上にはもう存在しないんじゃ無かったか?これ以上、専門的になると俺はついて行けなくなる。


 ーーなら


「どこで、手に入れたんだ?」


「日本地割れからだ」


 日本地割れ、四年前の大地震により起こった日本を東西に分裂させた巨大地割れ。

 成る程これ以上は俺でも、もう分からない。


「日本地割れの地層の、ある箇所だけに産出した奇石。僕はその場所を安定の崖と読んでいる。君になら意味が理解出来るんじゃないかな。そしてそれは確かに存在している」


 安定の崖か......安定の島に掛けているのだろう。

 なら次の質問だ。


「何故それを体内に注射すると超能力が得られると言うんだ?」


「其れは正に奇跡が起きた、という事だろう」


「説明になっていない!」


「科学的な説明をご所望かね、いいだろう。しかし最初に断っておくが、僕もこの現象について全てを理解している訳では無い。何方かと言えばまだ分からない事の方が多い。分かっている事は体内の血管内に注入した後、奇石の粒子が脳内に蓄積される、という事だけだ」


 脳内に蓄積される奇石の粒子それが、脳を刺激し人間に新たな力を与えるという事なのか。

 可能性は無くは無いと言えるが、ここまでの説明を聞いていると信じてしまいそうになるな。

 現に僕は二つの異常な事態に遭遇している過去がある。


「でも何故、脳内に奇石粒子が蓄積すると超能力が発現するというんだ?」


 教授が笑いながら答える。


「君は貪欲だね、ジンくん。人に聞けば何でも教えて貰えると思っているのかい? ここまでくると傲慢とも受け取れる気がするよ。君に良い言葉を教えてあげよう。『好奇心は猫をも殺す』だ」


「いいから答えろよ、これこそ超能力の核心部だろ」


 教授は高らかに大笑いをした後に、こちらを見据えた。


「良いだろう、教えてあげよう。奇石粒子が蓄積した脳からは"PSI粒子"が生成されるからだ。このサイ粒子は今までに知られている素粒子とは違い、異質な存在だ。この粒子は現実の物理法則に則って動いてはいない」


 物理法則に則っていない素粒子だと!? そんなものが実在すると言うのか?


「現在、分かっている事はサイ粒子が奇石粒子の蓄積した脳内から生成され、そして其のサイ粒子は不確実ではあるがヒトの意思によって操作出来るということ。そして強い力、さえも切り離す事が出来るという事実が有るだけだ。賢い君なら、此れがどういう事を意味するのか分かるのではないかな」


 原子核でさえ、その気になれば分解できるという事か? それはつまり超能力を使えば人体を構成している原子、分子を全て分解し尽くし、この世から完全に葬り去ることも出来る。

 証拠は何も残らない、だから裁判行為は一切機能しない。

 いや、冷静に分析しているが、これは相当にヤバいんじゃないか?

 この超能力の存在が世間に知られたら、下手したら人類が滅ぶ、いや地球さえ消滅させる事が出来る。


 顔から血の気が引く感覚がする、自分は今青ざめているのだという事実をこれでもかと自覚する。


「察するに、最悪なシナリオを想像しているのだろうか? 安心してくれて良い、超能力は万能とも言える力だが、その分欠点もある。

 其れに破壊だけでなく、創造する力でもある事には留意してもらいたい。」


 創造する......力。

 サイ粒子の実態がイマイチ掴めていないが、教授の話を信じるとすれば、やはり実在しているという事なのか、超能力が。


 今、俺が手にしている"コレ"はとんでもない代物だ。

 しかし、あと一押し足りない、まだどこかで超能力の存在を否定しようとしている自分がいる。

 まだ信じきれてはいない。

 そうだ俺はまだ実物を見ていない、超能力が実在するならそれを実演してくれれば一発で信じることができる。


「実演は......出来ないなのか?」


「やはり好奇心は猫をも殺すね、何でも教えて貰えると思っているのなら、其れは間違っている。大いなる科学の発展に犠牲は付きものだ、犠牲無くして新たなものは得られない」


 モニター画面が消えた。

しばらくして扉が開く。

 両手に注射器を携えて教授がこちらに歩んでくる、中にはドス黒い液体が入っている。

 同じ物だろうか、しかし少し色が薄い気がする。


「にやっ......にゃんで......」


 ずっと閉口していたネネコだったが、ここで口を開いた。

 注射器を見るや否や、歪に歪んでいく表情。

 怯えているようだった、俺たちに注射器を持って来た時には見せなかった顔だ。


 肩で息をしている、呼吸が乱れている。

 強いストレスを感じているのだろうか? これから何が始まろうとしているんだ? 

 ネネコは左腕を掴まれる。


 ーー振り上げられた注射針が不気味に輝く


 その針はネネコの腕に突き刺された。

 抵抗しようとするネネコだったが、腕はがっしりと掴まれている。

液体が注射されていく。


 ーー黒い液体がネネコの血管に勢いよく流れ込んでいく。


 ネネコの腕の血管を通りながら黒い液体が彼女の全身に回っていく、外からは血管が黒く変色していく様子が見て取れた。


 ーーしばらく実験場は彼女の悲鳴に包まれていた。








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