第一話 不可解な現象
18時俺は目が覚めた。
完全に昼夜逆転している生活、自分の部屋からは出ない。
そう俺は引きこもりだ、かれこれ一年、あの日を境に俺は引きこもり始めた。
足音がする、
「お兄ちゃーん、ご飯置いとくよー」
妹のマリだ毎日律儀に俺の飯を作ってくれている、こんな兄の事なんてほっとけば良いものを、しかしそのお陰で俺が飯を作る手間が省けるし何より、案外美味しいから嬉しかったりする。
俺は返事も無しにネットに向かいネットサーフィンを始める。
俺の日課は黒い巨大生物に関する情報なんかを漁る事だ。
だが一年経った今でも、あの化け物に関する情報がネット上には無い。
大災害が発生すると言っていた研究都市だったがその後、大災害らしい災害は起きていない。
だが俺の両親はあの日化け物に殺された、それに"あいつ"も帰ってきていない。
そして一番腑に落ちないのが俺たち兄妹に対し生活費が毎月、研究都市から振り込まれているという事だ、しかもその内容が研究都市からの賠償金だというから、もう意味が分からない。
研究都市が俺たちにどんな損害を与えたのか? 唯一あるとすればあの化け物の件だが、そのような情報は研究都市からは何一つ出ていない、生物実験であのような生物が生まれたというニュースも無い。
もし仮にそうだったとしたら、大災害では無く生物災害と発令していたはずだ。
どうすればあの化け物の情報にたどり着けるか。
「......アカデメイアに行ってみるか」
アカデメイア。
研究都市の中心に位置する最高峰の大学。
あらゆる情報とあらゆる研究成果が集まるアカデメイアなら何か分かるかもしれない。
ーーグゥ〜
腹が減った、ダメだまだ妹がそこにいるかもしれない、もう少ししてから飯をとろう。
俺に残っているのは妹のマリだけだ、その妹にこんなに迷惑をかけている、それなのに俺はまだここから出る決意が出来ない。
誰もあの日の事を信じてくれないからだ、そう妹さえ。
そろそろ、大丈夫か? 頃合いを見て素早くドアを開け飯だけを部屋に招き入れる、だがその時、何かが俺の腕を力強く掴む、
「ヒョオッ!?」
つい変な奇声を上げてしまったが、恐る恐るドアを開けていく。
そこには目に涙を溜めた妹がこちらを見ていたが、それを確認すると同時に俺は手を振りほどこうとしたが、思いの外離れない、
「お兄ちゃん、部屋から出てきてよー私いつも一人で寂しいんだよ」
妹の声は震えていた、
「うるせぇよ」
ドアを勢いよく乱暴に閉めた。
やってしまった、ただの八つ当たりじゃないか、思ってもいない言動をとってしまう。
なんでこうなるんだ妹は何も悪くないのに、悪いのは俺だ。
何もできない……弱い俺のせいなんだ! ごめん、マリ。
そういう事は本人に直接言わねぇとダメだろうが、なんで……そんな事も出来ねぇんだよ……
ささっと飯を平らげ、次は科学ニュースを確認する、
「成果無し、いつも通りの科学ニュースしかない。もっと心躍るような研究成果は無いもんかねぇ〜」
"あいつ"今どこで何をしてるんだろうか、行政機関に問い合わせても失踪としか返って来ないし頼りにならない。
生きているのかさえ分からない。
ーー23時
腹減った、ちょっと冷蔵庫漁ってくるか。
おっ紙に書いといたプリンもある、う〜ん私のプリンは食べないでねって書いてあったけど何種類もあってどれかわかんねぇーよー、どのプリンか目印くらい付けとけよ、
「適当にこれでいいやセンキュー、マリ」
「なにセンキューマリって」
ーーッ!
「おっおどかすなよ、なっ何やってんだ?」
「ちょっと足音したから来てみた、何してるの?」
「ちょっと腹ごしらーー」
「あーーそれ私のプリン、食べないでねって書いといたのにぃー」
「あっそうなのかすまない、てかなら目印付けとけよどれがどれだか分からないじゃないか」
「んっ? あっそうだったねー忘れてたぁー」
次の瞬間、頬に何か柔らかく暖かいものが触れた、
「うあぁーあー何すんだお前」
「ごめん、ほっぺにチューしちゃった、久しぶりで嬉しくって」
「なっなんでおっおま......ゴホンじゃあな」
プリンだけを持ってこの場を立ち去る。
「もぉー照れてるお兄ちゃん」
早足で自分の部屋に戻る。
はぁはぁこれはちょっと心臓に悪いぞ、よく見たらなんか可愛くなってたし、いい匂いしたしなんかパジャマ可愛かったし、ってなんで妹でこんな興奮してるんだ俺は、最近異性との関わりが無いとはいえこれ以上はダメだ、想像するな!
「あっスプーン無い」
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深夜の外、寒さで体が震える、この付近では深夜に人はほとんどいない、ランニングには持ってこいだ。
あの後、邪念を振り払うための解消法として俺はランニングを選択した。
これまでに何回か深夜にランニングをした事はある。
心肺機能を鍛えておいて損は無いだろう。
毎度の事だが暗くて道がよく分からない、帰りで迷子になりそうだったから、いつもあまり遠くには行かなかった。
十字路に差しかかろうとしていた時の事、
「あああぁぁぁーー」
「なっなんださっきの叫び声は!?」
甲高い声の女子の叫びだった、
「しっ! 静かにして都市内だから聞こえちゃう、力も使えないし音波遮断も出来ないから。あと少し頑張って」
物陰に隠れながら、何事かと音の発生源に眼を凝らす、暗くて分かりづらかったが二人はいた。
しかし俺は今見たものに違和感を覚えた、二人とも小さかったのだ中学生くらいの背丈の黒いシルエットがアカデメイアの方角に向けて歩き去っていった。
「子供!?」
なんでこんな時間に? それに聞こえた声は女子の声だった。
俺の聴覚と視覚を刺激した後にやってきたのは嗅覚への刺激だった、鉄の臭いがするいや...これは血の臭い! 其の刺激は時間が経つに連れて強くなっていく。
なっなんだこれ大量出血してるんじゃないのか、大丈夫なのかよ。
ーーッ!
「あーあーこんなに垂らして分解するの大変じゃん、もうー余計な仕事増やさないでよ」
まただ、今度は違う女子だった、しかも背は小さい。
彼女が通り過ぎていくと臭いは、たちまち弱まりあっという間に綺麗さっぱり消えてしまった。
俺の鼻が慣れたなのかと思ったが違った、臭いが完全に消失している。
分解と聞こえたが、
「まっまさか血液を構成する分子を分解したのか? いやっ消臭剤か何かを使ったのか?」
何だよ分解って?
いなくなったのを確認すると俺は恐る恐る、通り過ぎていった道路を確認しに行く。
無い、血など垂れていない綺麗な地面だ。
......!? さっきの臭いは確かに血の臭いだった、なんなんだ?
急に寒気がした、見てはいけないものを見てしまったような、背筋が凍る様な恐怖感が全身を襲う。
俺は急いで帰宅した。
今は深夜だということもあり寒さと恐怖感で俺の体は震えていた、もともと暗闇は得意じゃない。
存在するわけないと思っていても幽霊なんかの類を強く意識し、イメージしてしまう。
走って疲れていたこともあり、ベッドに潜り込み、恐怖から逃げるように眠りについた。
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昼過ぎに目が覚めた。
昨日の出来事を思い出す、
「あれっ夢かあれは?」
イヤ違う夢では無い、現実のような夢をみたことはあったがまさか夢のような現実を見ることになるとは。
整理しよう三人の......恐らく少女、そして何かに苦しんでいるような悲痛な叫び声、強烈な血の臭い、そして臭いの速やかな消失。
血の臭いは確かにしたそれは間違いない、そして臭いの消失も。
そしてその現場に血は無かった、仮に彼女に血が付着していただけだとしても多少は垂れる。
記憶を思い出す......「こんなに垂らして」......そうだあの時、彼女はそう言っていた。
何かが垂れていたんだ、そしてあの臭い......血以外にない。
だから地面には血が垂れていたはずなんだ。
ーーまさか
「......超能力、実在」
「ふんっ、何を調べてんだ、そんなものあるわけない」
やはり調べても出てくるのは都市伝説の様な噂や、俺にとっては到底超能力とは言い難い、雑な実験の結果ばかり。
俺は隅々まで調べたそして行き着いた、あるウェブページ。
何だこれは?
「超能力試験者募集、応募資格13歳から19歳まで?」
なんだこの募集は? どこからの募集だ......NAMS。
ナムス、おいおい物質研究機構がなんで、こんな非科学的な募集出してんだ? 超能力なんてあるわけないだろ、ネタか?
場所はアカデメイアの超能研究室か......どこだ? まぁいいや、アカデメイアかいつでも試験は受けられるらしい。
ちょうどいい、調べ物ついでに行ってみよう
アカデメイアも関係しているとすると本当に超能力が科学的に解明されたということなのか? 皆目検討がつかないが、手品の類だったら俺なら多少は見破れるかもしれない。
まぁそうか手品のネタだって可能性もあるな、もしそうなら手の込んだ仕掛だが、アカデメイアなら大掛かりな仕掛けを作ることだって出来るだろう。
科学的なネタなら一般人ならまず見破れないだろうし、じゃあやっぱり、
「いや行ってみるか、俺は19歳ギリギリいける」
俺もそろそろこんな生活を続けていくわけにはいかない。
気持ち悪い、研究都市からの賠償金という名の生活費の事も、あの化け物の事も全ての研究成果が集まるアカデメイアなら何か分かるかもしれない。
次の休みにでもにも行ってみよう。
マリも誘ってみるか。
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五月の祝日10時、やかましい目覚まし時計をとめる。
はぁ今日か、妹にはメールで一緒に行こうと伝えてある、そして返信は一緒に行くと返ってきた。
さて脱引きこもりをするとしますか。
ドアが叩かれる
「お兄ちゃーん、起きてる?」
「あぁ起きてるよ」
マリはもう出掛ける準備は出来ているようだった。
「いつ出発するの?」
「ちょっと俺がシャワー浴びてからかな、ちょっと待っててくれ」
「はーい」
ニコッとこちらに笑顔を見せてから、リビングに向かっていった。
ササっとシャワーを浴びて服選びを始める。
いつもなら楽なジャージを手に取るが、今日は多少まともな服装をしなければ。
......分からん。
結局Yシャツとジーパンに落ち着いた至って普通な格好、可もなく不可もなくってとこだ。
マスクをポケットに忍ばせ準備を整え、リビングに向かう。
「準備出来たよ、行こうか」
「うん!」
元気な返事が帰ってきた。
ずっと引きこもっていたからだろう、心臓がドキドキして痛いがじきに慣れるだろう。
妹にでは無い、外に出て人が大勢いる所に行く事に対してである、断じて妹と一緒だからではない。
外はうっすら寒かった、俺たちはアカデメイアに向けて出発した。
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アカデメイアに到着した。
アカデメイアは研究都市の中心に位置し科学研究の最前線をリードする大学だ。
妹が腕にしがみ付いてきた、
「緊張してるのか、まぁ無理もないか中学に上がったばかりだもんな。こういう所は初めてだもんな」
そんなにしがみ付かれるとこっちも緊張してくるなー心臓の鼓動、聞こえてないよな?
「うぅー......あっねぇねぇ、あっちに食堂があるよ、お兄ちゃんまだお昼食べてないでしょ。ねぇー食べに行こうよ」
「そうだな、まだ時間も少しあーー」
「早く行こうよ」
おっとそんなに引っ張るなよ、そんなに急がなくても食堂は逃げてかないぞ。
俺は豚骨ラーメンを、妹はチャーハンを頬張った。
値段もお手頃だし悪くない、ちょっと遠いのが難点だが、また来たいな。
さぁ俺はこれからが本番だ超能力の試験、おそらく超能力の素質があるかを試すのか、或いは超能力を使いこなす素質を見るのか何にせよ楽しみだ。
マリには超能力試験の事は言ってない、13歳だから試験を受ける事は出来るのだが、先ず俺が試験とはどんなものか確かめてからだ。
怪しいなにかだったらマリに受けさせるわけにはいかない。
アカデメイア内の地図を確認する。
「超能研究室、超能研究室っと......? 無い、この看板に超脳研究室は載っていない。なんだ募集はデマだったのか?」
「ありますよ」
突然、後ろから黄色い声で話しかけられたため素っ頓狂な声で驚いてしまった。
妹が腹を抱えながら大笑いする、
「お兄ちゃん驚きすぎ、何さっきの声面白い」
妹よ笑いすぎた、もう少し淑女の嗜みってものを覚えるんだ。
アカデメイアの学生か?
「それで何でしょうか? ありますよとは?」
すかさず返答してくる
「だから超脳研究室ですよ、良かったらご案内しますよ?」
怪しい、怪しすぎる。
どうして地図に乗っていない研究室があるんだ、それに何故、彼女は俺に話しかけてきた。
案内をしてもらいながら聞き出せばいいか。
「じゃあ案内をお願いします」
「はい、どうぞ私についてきて下さい」
俺たちは彼女について行く、意外と歩くのが速い。
「その研究室はどこら辺にあるんですか?」
彼女は少し悩むような仕草をしてこう答える、
「アカデメイアの端っこです」
端っこ、他より多少空白の部分が多かった北東の場所か?
「もしかして、ここから北東の場所の所ですか?」
彼女は拍手しながら答えてくれた、
「ご名答そうですよ、よく分かりましたね」
当たった、まさか本当に当たっていたとは。
「今日は試験を受けに来たのですか?」
やはり彼女は関係者、もしくは超脳力試験の事を知っている人物だ、
「はいそうです、そのー質問いいですか、超能力試験と言うのは具体的に何をするんですか?」
彼女の表情に一瞬、陰りが見えた気がしたが、すぐに笑顔に戻った、
「超能力者になれるかの試験ですよ」
平然と大それた事を口にした。
こっちが困惑してしまう程だ、超能力者になれるかか。
彼女は続いてこう答えた、
「ちなみに男性よりも女性の方が、年長者よりも年少者の方がなれる確率が高いです」
はい俺アウト! 妹のマリはドンピシャですね、合格!
「何故、男女で差があるんですか?」
俺の質問に嫌な顔一つせず答えてくれる、
「主な要因は脳の構造の違いです。私も詳しいことは分かりません」
脳の構造の違いか、確かにそれらしくはあるが本当だろうか。
「着きました! ここが超脳研究室です!」
ーー遂に来た、超脳研究室。
ーー俺は半信半疑ながらその扉を開く。
ちなみに主人公の名前は霧島 仁(キリシマ ジン)です。