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ゲームの世界に転生した俺は/私は

作者: 長野 雪

長野 雪さんは

1.恋なわけ、ないじゃない(23%)

2.貴方と私で半分こ(13%)

3.奪いとった幸福(33%)

4.溢れた言葉(31%)

の中で一番多かったお題を書いてください。

#お題アンケ

https://shindanmaker.com/601337


「ついに、ここまで来た……!」


 真新しい制服に身を包み、正門前に立った俺の目から、涙がこぼれ落ちそうになった。いや、いかんいかん。入学より前に泣いてどうする、俺。

 だけど、ここに至るまでの長い道のりを思うと、ちょっとぐらい泣いてもいいと思う。頭がキリキリするほど試行錯誤して、血筋だけしか価値のない奴らの罵倒に耐え、俺――商業王国アレグロの王子モデラートは、学園都市の中央に位置するコンツェルト・アカデミーに入学する運びとなった。爺の代で築き上げたうちの国は、他国の王族との商業的な交流は山ほどあるが、婚姻的な交流はさっぱりない。百年単位の歴史がある各国の王族は、俺らのような平民との婚姻なんて以ての他だと斬って捨てていたのだ。


(爺、親父、何とか俺、野望を果たせそうだよ)


 元々商会を営んでいた爺が立国したのは、そもそもとある王国の姫君に懸想をしたのが発端だったそうだ。だが、貴族どころか王族と平民の結婚など考えられない。王族は自国貴族と、もしくは他国との絆を深めるための婚姻しかありえないと求婚は一蹴されたそうだ。

 それならば、国の主になってやらぁ、とばかりに爺が立国するも、姫君はあっという間に他国と政略結婚。自棄になった爺だが、その自棄がなぜか国を大きくすることになった。稼いだ金を道路整備や学校の設立などの公共事業に全部ぶちこんだのが敗因(?)だ。

 そんな父親を見ていた俺の親父だが、血は争えないもので、やっぱりとある国の姫君に一目惚れをした。うちの国は「国」と言ってもまだできたばかり、そんな野蛮で下賤なところに嫁入りなんて王族の格が下がるとばかりに求婚は突っぱねられた。憂さ晴らしのように病院や娯楽施設など多岐に渡る福利厚生に力を入れた結果、他国から優秀な人材が流れ込み、ついでに流れ込んできたお袋までゲットした。

 俺の代になると、周辺国もうちの影響力に脅威を覚えたのだろう。いくつかの国から「縁続きになろーぜ☆彡」とばかりに同じ年頃の姫君たちの肖像画が送られてきた。今度はこっちが一蹴してやった。俺の目指すのは弱小国なんかじゃない、大国の姫君を嫁にすることだからな!


――――唐突な話だが、前世、という概念を知っているだろうか。自分が生まれ落ちる前、別の人生を歩んでいた、という考え方だ。どうしてこんな話をしたかっていうと、俺には前世の記憶がある。

 日本という国で暮らしていた俺は、アニメ・ゲーム好きの独身貴族だった。いや、独身貴族なんて優雅なもんじゃないか。現実の憂さを画面の向こうに叩きつけるようにのめりこんでいたからな。

 そんな俺がプレイしていたゲームの1つに「ロイヤル・ラヴァーズ~明日へと煌めく協奏曲~」というものがあった。とある商業王国の王子が、とある学園に入学し、在学中に妻となる姫君を落とすギャルゲーだ。

 ……もう、お察しのことと思う。


 俺、ギャルゲーの世界に転生しちゃった! しかも主人公枠だぜ!


 攻略対象の姫君は全部で5人。高飛車なスフォルツァンド王国のフォルティシモ姫、しとやかなアッチェレランド皇国のリタルダンド姫、妹タイプのテヌート公国のスタッカート王女、享楽的な海洋王国コーダの公爵令嬢フィーネ、秀才タイプの技術立国グリッサンドのフェルマータ王女。

 大国の関心を向けるために、前世知識を駆使して特許の概念を浸透させ、各国の生活向上に一役買う、なんてことまでしたのは、全て、彼女に会うためだ!


 高飛車なフォルティシモ姫に、ツンツンされたい! なじられたい! あわよくば踏まれたい!

 ツンデレの黄金比率はツン9に対してデレ1だと豪語してならない俺は、3年間で何としてでもフォルティシモ姫を落としてみせる!!!



  。+゜☆゜+。♪。+゜☆゜+。♪。+゜



――――入学から2週間が経った。


「なんっで、どこにもいないんだよぉぉぉっ!」


 同じクラスになった楽しいことや遊び大好きフィーネが、そりゃもう猛烈にアタックしてくるのを(何せ、うちの国は金持ちだからな!)撒いて、1学年上のクラス周辺をうろうろとするも、一向に遭遇しない。

 そもそも、貴族や有力商人の子息令嬢が集まるこの国でも、王族なんて目立たないはずはないし、人を集めないはずもない。それなのに、フォルティシモ姫の姿が一向に見当たらない。

 あのプラチナの緩い縦ロール!新緑色の瞳!いかにも気の強そうな顔立ち! ……視界に入ったらすぐに分かると思うんだけどなぁ。


 昼休みを無為に過ごし、とぼとぼと自分のクラスに帰る俺だったが、唐突に、俺に向けて指をつきつけ「あーっ! 見つけたー!」と大声を出したヤツがいた。

 制服を見れば、俺のいる高等部ではなく中等部の生徒だと分かる。だが、昼休みになんで中等部の生徒がいるんだ? 妹タイプのスタッカート王女だって、部活が被らないと遭遇しないはずだぞ?


「キミがアレグロのモデラート王子でしょっ!」


 俺の方に駆け寄ってきたその子は、強引に手を引いて握手の形にする。白金色の髪に緑の瞳、探し人とパーツの色はあってるんだが、髪型はショートボブだし、何より元気系なお子ちゃまだ。


「あぁ、悪いけど俺、急いでるから――――」


 とっとと教室へ戻ろうと手を振り払おうとした俺だが、そいつの自己紹介に目を剥いた。


「ボク、スフォルツァンド王国のピアニシモっていうんだ。よろしくね!」

「はぁぁぁぁぁぁっ!?」


 待て。今、スフォルツァンド王国? ピアニシモって言ったか? 俺の記憶が確かならそれは……


「おい、待て。それは王子の名前じゃないのか?」


 そう、俺の探しているフォルティシモ姫には弟王子がいる。高飛車な姉姫は、将来国を継ぐ弟のために健気にも下賤の輩である商人あがりの王子(俺のことだ)に接触をする決心をして、この学園へとやって来たのだ。その弟の名前が、ピアニシモ、だったはず。


「あれ? もしかして、通達がうまくいってないのかな? 確かにボクが生まれたときは王子として育てて、ゆくゆくは……って話だったみたいなんだけど、姉上が第一王女である自分が女王として立つって宣言してくれてね、めでたく本来の性別で過ごせるようになったんだ」


 だからボクっ子なのかー……。すまん、ボクっ子は好みじゃない。好みじゃないんだ。

 いや、それ以前に、この目の前のボクっ子が言っていることが本当なら……


(フォルティシモ姫を攻略できねーじゃんかっっ!)


 俺はアレグロの次期国王、そしてあちらはスフォルツァンド王国の次期女王。どうやっても縁組は無理だろう。


(どうして、こうなった……)


 俺はがくりと両膝を落とした。



  。+゜☆゜+。♪。+゜☆゜+。♪。+゜



 私は女官によって開かれた扉をくぐり、視線で彼の御方の姿を探しました。ですが、彼女がいつも使っているデスクには、その姿はありません。

 ちらり、と女官に目で尋ねると、私室として使っている奥の部屋を示されました。

 もしや、眠っていらっしゃるのでしょうか。ですが、そうであれば、私が入室を許される筈もありません。

 それでも念のためにと足音を殺して奥の部屋へと足を踏み入れると、長椅子に身体を預けた彼女が、窓の向こうへ視線を送っているのが見えました。手には、今朝がた私がお届けした資料を持っていらっしゃいますが、あの様子では、ほとんど確認しておられないのでしょう。


 空の向こうに何を……と考えたところで、すぐに思い至りました。あの御方が心砕かれることは、そう多くはありません。そして、今日の日付を思えば、簡単な推理で済みました。


「妹姫様、ピアニシモ様がご心配ですか?」


 ようやく私が来ていたことに気付いたのでしょう。彼女はゆっくりと振り向きました。さらりと流れるプラチナの絹糸はくるりとカールされています。こちらに向けられた新緑の瞳は、まるで森の奥にいるかのような静謐な癒しを与えてくれました。


「あぁ、プレスト。……そうね、ピアニシモは元気にやっているとよいのですけれど」

「やはり、気になりますか。アレグロの王子が」

「気にならないわけがありませんわ。卑しい生まれの身でありながら、各国の喉元を食い破らんとする金の亡者ですもの。国民の生活が豊かになることはよいのですけれど、あの『特許』という考え方は、本当に腹立たしいこと!」


 あの国は、技術を提供する代わりに技術料を寄越せと各国に突き付けました。それを拒否するには、新技術は使い勝手が良過ぎたのです。


「姫様、ならばこちらも同じ手段を使えばいいとおっしゃったのは、他ならぬ姫様ではありませんか」

「えぇ、そうよ。……だけど、悔しいけれど認めなければならないわ! 新しい技術を開発するのが、これほど難しいことなんて!」


 手にしていた報告書は、技術開発の部署から上がってきたものでした。やはり経過は思わしくないのでしょう。


「焦ってはいけません。どうか、お心をお鎮めください、殿下」

「……分かっているわ、プレスト。――――ねぇ、履かせてくださらない?」


 はしたなくも長椅子の上に乗せていた足を、つんと伸ばした彼女のサクランボのような唇が弧を描きました。


「もちろんです。私の女王陛下(ユア・マジェスティ)

「その呼び方はまだ早くてよ」


 恭しく可憐なその足を手に乗せた私は、そっと甲に唇を寄せました。私の女王陛下、と口には出さずに呟いて、靴をそっと履かせる。もう片方の足を同じように履かせると、私は長椅子に座る彼女の前に膝をつきました。


「先ほど、我らが国王陛下より、正式に承りました」


 そう、先ほどまで私は陛下から呼び出しを受けていたのです。将来、女王として立つ彼女を心配する父王に。


「私が、貴女の隣に立つことを」


 それはつまり、いずれ女王陛下となる彼女の夫になるということです。自らの将来に深く関わることだというのに、彼女の美しいかんばせには動揺の色一つありませんでした。


「――――呆れた。まだ正式に認めていなかったんですの」


 彼女の繊手がつい、と上げられました。


「ねぇ、プレスト。貴方はわたくしが本当に女王に相応しいと思っていますの?」

「勿論です。貴女がそう望まれる限り、この国を率いて立つにふさわしいのはただお一人……フォルティシモ様」


 差し出した私の手にほんの少しだけ重みを乗せ、姫様が長椅子から立ち上がりました。ふわりと香る薔薇に似た香気に思わず頬が緩みそうになります。揺れるプラチナブロンドは綺麗に巻かれ、乱れたところなどありません。


「明日、正式に婚約の発表が為され、正式な婚儀は1年後となると伺いました」

「そう。即位について陛下はなんとおっしゃっていて?」

「明確な年数までは。……ですが、女王として立つまでに、世継ぎの二人三人は産んでおくように、と」

「……っ」


 反論こそ口になさらなかったものの、じわじわと殿下の首筋から頬のあたりまで赤く染まっていくのが見えます。


「政務に本格的に携わる前に、出産は済ませておけと、そういうことですの。本当に国のこととなると疎ましいぐらいに冷徹に考えますのね、陛下は」


 ふい、と顔を逸らして再び窓の外へ視線をむけた殿下は、その先に妹姫ではなく父王のことを考えているのでしょう。先ほどと異なり、どこか冷たい瞳で空を睨みつけていらっしゃいます。


「プレスト、貴方はいつまでわたくしの傍に……いえ、なんでもないわ」

「フォルティシモ様。どうか私を貴女様の傍に置いてくださいませ」


 なかなか本心を明かせず、自尊心の高い彼女がこちらに歩み寄ることなどないのは分かっています。ですから、私が一歩、距離を詰めればよいのです。


「えぇ、貴方がその頭脳をわたくしと国のために使うというのなら、隣に立つことを許してあげます」

「光栄でございます、私の殿下(ユア・ハイネス)


 私は恭しくこうべを垂れました。

 あぁ、なんという幸福か。いずれは遠くに行ってしまうフォルティシモ姫を自分の隣に……いや、姫の隣に立っていられることになるとは。


「取り急ぎ、技術開発部の方へ参り、発破をかけて参りましょう」

「えぇ、そうね。期待していてよ」


 私は姫の前を辞し、貴き御方の私室を後にしました。


(商業大国アレグロが特許を盾に優位に立とうとするなら、こちらも同じ手を使うとしましょう)


 特許の概念を持ち出したのは王太子であるモデラート王子と聞いています。どうも、私と同じく転生者である可能性が濃厚ですが、あちらは3年間はあの学園という名の箱庭に閉じ込められることでしょう。その間に、こちらも打てる手は全て打っておくことが肝要です。


 く、と口の端が持ち上がるのを慌てて堪えました。ここへ至るまでの道のりを思うと、本当に愉快でなりません。


――――私はここスフォルツァンドのとある侯爵の次男として生を受けました。ただし、前世とも言える別人の記憶を持ったまま。貴族の務めを果たすべく、様々な教育を施されるうちに気付いてしまったのです。ここが、かつてプレイしたことのあるゲームの世界である、と。

 かつての私がプレイしていた「ロイヤル・ラヴァーズ」というゲームは、アレグロの王子を主人公にして複数の姫君と恋の鞘当てを繰り広げるギャルゲーと呼ばれるジャンルの1作でした。

 その中でも私が贔屓にしていたのは、スフォルツァンド王国の王女であるフォルティシモ姫です。気高く、ですが、それゆえに天邪鬼な行動をとってしまう彼の方を慈しんでおりました。かつての私の言葉を借りて言えば「フォルティたんツンデレてらかわゆすhshsprpr」といったところでしょうか。

 複数の女性を相手にするような主人公に私の姫を渡すわけにはいかないと、徹底的に自らを磨き上げ、王城へ勤めることにしました。そこでピアニシモ様が本当は姫君であることを突き止め、妹姫様に重責を押し付けることに思い悩んでいた心優しいフォルティシモ様に囁くことに成功したのです。嫡男がおられないならば、第一子である姫様が立たれればよろしい、と。

 姫様に、政務に関わるためのアドバイスをしているうちに、まるで右腕のように重用されるようになったことも、国王陛下に才覚を認められて、出世の道を駆け上がることができたことも、まるで決められたシナリオを壊してしまえと神が祝福してくれているようでした。


「……悪いですね、主人公。私の姫様を渡すわけにはいかないのですよ」


 学園という箱庭の中で楽しく過ごしている間に、商業大国のアドバンテージは削らせてもらうことにしましょう。

 私は前世知識を漁り、有効な一手となりそうな技術のピックアップを始めることにしました。我が国の技術力は他国に劣るほどではありません。アドバイスという形で技術開発部に与えれば、きっと素晴らしい『新技術』を開発してくれることでしょう。


主人公から奪い取った幸福ヒロインってことで(; ・`д・´)

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