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9.

 三年前。


「殺せ」


 規制装置を取り付けられたうえでいくばくかの修復をほどこされた彼女が、再起動の際に放った第一声が、それだった。


「どうして、素直に決着をつけてくれなかった? こんな生き恥、ごめん被る」


 それに立ち会ったひねくれ者の少年は、鼻で嗤う。


「生き恥をさらしてんのはこっちも同じだ」


 自らの手首にかけられた拘束具を掲げながら、彼は不自由そうに肩をすぼめた。

 彼らの部屋には自他を傷つける凶器になりそうなものは一切ない。右側には、城壁のように分厚いガラスが張られていた。その奥で、剣呑な様子の大人たちが動く気配が感じ取れた。


「かつてお前の言ったとおり、俺は天邪鬼でな。死ねと思われれば何が何でも生きてやろうと思うし、死にたがりに対しては無理矢理にでも生かしてやろうと思う」

「貴様の趣味嗜好に私を巻き込むな。あの神聖な決闘に、貴様はそのような甘い考えを持っていたのか」


 少年……枝折文弥は彼女を険のある目つきで睨み返した。


「お前こそナメんな。俺が手を抜いたように思ったのか。……ガチでやったさ。それでも、殺しきれなかった。で、お前を呼び戻すように頼んだんだ」

「余計なことを」


 今、人の姿をとっている彼女は、忌々しげな表情を隠さなかった。

 彼女……シェルフィードの訴えを枝折は無視した。


 人間態は小柄な彼女に視線を合わせ、そして言った。


「今、智恵子が新しい会社を作ろうとしている。それに誘われている」

「けっこうなことだ。そのまま書徒亡き人類社会を謳歌するといい」

「けど、実のところ俺もこれからの世界って奴には半信半疑でな。お前や俺に対する扱いを見てもそう思うし……きっと、お前らの残骸を利用する悪党どもはいる」


 横に向けられたシェルフィードの顔色が変わった。ふだんいかつい面相に隠れているだけで、腹芸は苦手なのかもしれない。


「それをどうにかするための組織だそうだ。いずれはそれもなくなって、普通の人材派遣とイベント運営の会社にシフトしていく見立てだそうだけどな」

「で、それと私に何の関わりがある」

「生き残ったお前には、その始末をする責任があるはずだ」

「身勝手な話だ」


 覚醒したばかりだというのに、殺気さえ感じる眼差しに、枝折は一瞬ひるんだ。だが、さまがら一世一代の告白のような心境で、彼は手を差し伸べた。


「正直なところ、まだ俺も答えが出ていない。この世界は本当に、救われたのか。救っただけの価値があったのか。救ったうちに入るのか。……それでも、生きる。だから、お前も生きて欲しい。誰かに託すんじゃなくて、お前自身の目で見て、感じて、そしていつか聞かせてくれ。お前から見た、俺たちの選択の是非を」


「……つくづく、勝手な男だな」


 シェルフィードは、呆れていた。

 呆れながら、その指先を少年の手へと伸ばした。

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