7.
浮遊する書徒が、唸り声をあげて砂を巻き上げながら飛び立った。片翼をもがれたにも関わらず、それをものともしない上昇ぶりだった。
残された左翼から、羽のようなものが無数にばらまかれる。拡散するそれが触れた瞬間、
枝折は大きく、異形と化した腕を振りかざした。
そこから同じように発せられた羽が、地表に向かって降り注ぐそれを、軌道を細かに、そして直線的に修正しながら余さず迎撃した。
いや、それだけでは足りなかった。
いくつかの羽は機体から放たれた『チャフ』を突き抜けて、尾翼を直撃し、貫き、そして割った。
その破片を散らしながらも、それでも機体は高度を上げていく。
だが、半身を引きちぎられたかのようなその姿では、さすがにその速度を落とさざるをえなかったようだ。
枝折は、脚でやわらかな地面を踏みしめた。
そして、おおきく跳躍した。
……否、それはもはや飛翔と呼ぶべき行為だった。
一瞬で、一飛びで、高みに逃れようとする書徒に追いつき、獣じみた荒々しさで、左腕に先端から伸びた三本爪がその胴体部に食らいついた。
小手先の技術ではない。それを引き出す魔導書としてシンプルなスペックの差が、あった。
同じ系統にありながら、枝折を補助するその白銀の『梟』は、完全な上位互換であった。
もがく書徒を力に任せて胸の前まで手繰り寄せ、人の手で持ったナイフを改めて握り直す。
刻印が銀色に明滅を繰り返す刃には、まるで嵐をそこへと集中させたかのように、豪風が渦を巻いていた。
それをナタのように、振り下ろす。
刃風が、その分厚い装甲をちぎってむしって、引き剥がしていく。
人魔一体となった枝折に取り付かれたまま、完全に飛行能力を喪った機体は、きりもみしながら墜落したのだった。