その横顔は寂しそうで。
12/2の正午に投稿されているはず。きっと。
おそらく。多分。maybe.
ここがアイツのハウスね。
『裏切りは告白のあとで』
Chapter2-1:その横顔は寂しそうで。
同好会の立ち上げも順調に進んでいた年明け。
俺は寒空の下、栞里先輩に呼び出しを食らっていた。
別にシメられるわけではない。
ただ一つ確認されたのだ。
同好会と演劇、両立できるのか否か。
愛子は副会長としてやるからいいとして、お前は平だろう。
だから別に行かなくてもいいんじゃないのか。
両立できなくってどっちつかずになったらどうするんだ?
そんなことを言われた。
やれますよ。だってプラスバイトもしてるんで。
そりゃこのクソ忙しい時期に人手を持ってかれるのはアレですが、
土曜日の活動はないので、そこで挽回できますよ。
確かそんな風に返した。
俺の目をじっと数秒見つめたあと、がんばれよと一言こぼして栞里先輩は去っていった。
素敵っ、抱いて!なんてね。
あの人は部のことと後輩のことをなんだかんだと言いながらしっかり見てくれてた。
ところで演劇部には二度大きな舞台がある。
夏の大会と冬終わりの合同発表会と学園祭の舞台だ。
三度だ。
冬の終わり春先にある合同発表会、
略して合発で俺は恋人ができた。
夜魅山彩花
S高校の子だ。合発で知り合った。
初めての恋人で浮かれまくりで。
成績は落ちはしなかったけれども、結菜や弥生らと遊ぶことが極端に減った。
付き合い始めたのは合発が終わって新年度入ってすぐだが、
結菜に伝えたのはGW明けである。
正直実感がわかなかったのと、可愛くないと言われたらどうしようか、
という不安がないまぜになったよくわからない感情。
つまりクソみたいなプライドが邪魔をしたから話せなかった。
今度はできたらすぐに報告してね、なんて。
おいおいやめろよ変なフラグたてるの。
別れるつもりはないからな。
なんて。
焼肉をいくらでも食べられると思っているあの無敵感と等しい、
別れるわけがないという根拠のない自信がその言葉には含まれていた。
お前とは違うんだ。そんな俺の暗い想いが混じっていたのだ。
「あれーじゃあお祭りいけないね」
「そうな。彼氏と行って、あ、悪い」
「え?なんで謝ったの?」
トラウマになっていてもおかしくない裏切りだと思っていたけれど、
彼女にとっては別に屁でもないようで。
しかしここから数年先にどうしようもないくらいに立ち直れない裏切りにあうことになろうとは。
誰も思いもしなかった。アイツがユダになってしまうだなんて。
誰も想像すらできなかったのであった。
***
「わかんないよ!もうわかんないっ!」
順調な交際を進めて半年。
順調だと思っていたのはどうやら僕一人だけだったみたいで。
彼女はそうは思っていなかったようだ。
最初はささいな言い合いだった。
それがこじれて大喧嘩へ発展。
互いに少し落ち着くために距離をとろうということになった。
それが駄目だった。
ときは高校二年。もうすぐ来る進路について悩み始める頃合い。
そしてその先にまで想いを馳せる。
そう。俺は気づいてしまったのだ。彩花との将来が全く想像できない自分に。
彼女との未来予想図を1ミリも描けないという自分の冷たさに。
気が早すぎるかもしれないけれども。
結婚というたった漢字二文字の言葉は彼女と俺を結びつけてはくれなかった。
だが、それは俺だけの問題であって彼女は違うかもしれない。
そんな思いを抱いて更に4ヶ月。限界だった。
一度疑えばもう二度と信じられない。俺はそういう人間だったのだ。
盲信か疑うか。間の段階が存在しない質だったのだ。
だから俺は彼女と別れた。
「僕は多分背伸びをしてたんだ。もう疲れたよ。
それに、遠距離はできない。だから別れよう」
補足するのであれば。彼女は親を説得し芸大へ進路を確定し。
翻って俺はといえば未だ決まらず。せいぜい、地元から出ないしかなかった。
今になって思えば負い目を感じてたのかもしれない。
初めての恋人を告白しておきながら振るというなかなかに屑な所業をしでかした俺は、
寂しさを紛らわすようにいろいろな女性と懇ろな関係を結んだのであった。
***
「おまえ、本当にそこを受けるのか」
「ええ、まあ、国公立ですし。あ、落ちたら適当なとこ行くんで」
「うちの四大以外へ行けよ」
「あーそれも候補だったんですよね。高校の時の焼きましってやつで」
「お前というやつは……」
「なんとかしてみますよ。というかなってもらわないと困りますしね」
「……」
俺が進路を決めたのは9月中頃。
それまではああでもないこうでもないだなんていいながら勉強を重ねていた。
そしてその甲斐なく東北の県立大学への進学を決めざるおえなかった。
っちゅーか。私立と同じ値段なら国公立の寮暮らしを選ぶよね。
「えー。そんな遠い所行くの?」
「まあ、行くところがなかったからね」
「あんだけ努力してたのに?」
「そういうもんだよ、だいたいさ」
「あ、もしかして私のせいだったりする?」
「どうして?」
「ほら、勉強見てもらってたから……」
自分の人生と天秤にかけてお前を手伝うほうがいいと判断した、なんて。
そんなことは言わず。言えず。
「んにゃ、ありゃ関係ないよ。ただただ、本番に負けただけさ」
そう。何時かの自分に指をさされたくないから結菜を手伝った。
何時かの自分に胸を張りたいから。
「むむむ。まあそういうことにしておいてやろう」
「何様だよ、ったく」
「結菜様じゃ。わはははは」
「はいはいえらいっすねー。あいたっ!?何も脛蹴る事はないでしょ」
「べーっだ!」
勘弁してくれ。痛いのは嫌いなんですよっと。
そこから卒業まで大したイベントも起きず。
起きてもらっても困るが、起きず。
卒業式を迎えた。
***
立ち上げたサークルの後輩らと記念撮影。
そしてその後。
「さっき隆鼻伸ばしてたでしょ」
「言いがかりはよせってーの」
「いいや、伸ばしてたよ絶対。ね、弥生」
「んー。そうなんじゃね?ふはははは」
「ふんっだ」
クラスメイトの美人さんとの記念撮影で言いがかりをつけられた。
いやいや。ほらあちらさんはクラスメイトとして接してきてるから。
っちゅーかお前彼氏いるよね?
なになんでジェラシット?なんて内心でおもってたのは事実。
「これでこの制服ともおさらばかぁ……」
「お?隆のくせにセンチになってんの?ウケる」
「俺にだってそういう日はあるんだよ。すこしくらいは悪く、ない。だろ?」
「そうだけどさぁ。珍しくって」
「悪い俺バイトあっから先帰るわ。んじゃまたな」
弥生が一抜け。
それに続き俺もその勢いに、
「カラオケ行こ?」
「……ちょっとだけだぞ」
「わーい!」
のれず。よくわからない感傷に浸りたくないがために、
悪魔の提案に乗ったのであった。
***
卒業してからは去年の空白を埋めるかのように結菜や弥生らと遊び呆けた。
まるで、心のメモリーに焼き付けるかのように。
一生会えないかもしれない、会わないかもしれないこの親友たちのことを。
なんて思って大学の世界へ。
さすが大学。いろいろな県出身のるつぼであった。
思考も発想も行動もすべてが物新しく。
とても素晴らしい好条件な大学生活の始まりが幕を開けると同時に。
それまでの友人らとは希薄になるはずだった。