その気持ちに未だ触れられず。
最初だから出血大サービス。次からは毎週金曜日に更新になります。
「どんな顔をして会えばいいのやら」
未だ目的地は、はるか先に見える。
『裏切りは告白のあとで』
Chapter1-2:その気持ちに未だ触れられず。
ようやく落ち着いた6月。
陽気な日差しはじんわりと汗をかかせる程度の暑さをもたらしてくる季節。
もしくは結婚を行うと幸せになれるというジンクスがある月。
部員全員で軽めの研修、ワークショップに出かけた。
ういろううり。
「拙者親方と申すは……」で始まる、滑舌や発声の練習に用いられる長文であるが。
それを小ネタに使った劇団を他の高校の生徒たちと一緒に鑑賞した。
そんな6月のある日の帰り道のバスの中で。
僕の今後の運命、身の振り方を決めたに等しい誘いがかかった。
「今夜、祭り行かない?」
結菜から祭りに誘われたのだ。
ここでちょいと部活の内情に触れておくと。
現在仲田結菜は今多江先輩と付き合っていたはず、である。
そう付き合っているはずなのだ。おやおやおやおや。
おかしいねえ。なにがどうなっているのやら。
「ん?えっとショウ先輩は?」
「ことわられちゃった」
少し悲しそうにバスの窓の外を見やる。
「あー……そっか。んと」
「結菜ちゃん、それ私も行っていい?」
「……うん!いいよ!皆で回ったほうが楽しいしね!」
「ん?あれ?僕参加決定?」
「何いってんの?あたりまえじゃーん」
その当たり前は僕にとっては当たり前じゃないんだけどなあ。
なんて目で訴えても。きゅるる~んとした目で見つめ返されりゃおしまいよ。
結局どうなったかって?
無論行った。
***
二人の食べ残しプラス俺の食べ残しの異なる三種類のカキ氷を混ぜて何故か僕が食った。
食ったというか気づいたら食べさせられていた。女の子はやはり怖い。
あとは、はぐれないように結菜とは手をつなぎ、ゆきは結菜の鞄を掴んでいた。
ゆきは門限があるらしく、早々に帰っていった。
僕らも帰ろうかって話になったけども、話があるって引き止められた。
「昨日の夜、彼氏と喧嘩してさ。明日、つまり今日の祭りのことでね」
「へぇ」
「それでね、そんなに隆治が好きならそいつと行けよって話になってさ」
「ん?」
おっと?ちょっときな臭くなってきましたねえ。
「私も否定したんだけど聞いてくれなくてさ」
「あの人が?なるほど、ね」
「私、昔から感が良くてさ。そーゆーの解っちゃうんだ。ホントだよ?」
「解ってるって……第六感みたいなもんか」
いちご100%かよ。
「だから『ああ、この人は他に好きな人が居るんだ』って」
泣いてたのかな、結局あの時。
「あのさ、隆はさ、私の事好き?」
「ゴメン。俺わからないんだそーゆーの。だからさ、悪い」
高校生になって初めての俺って一人称を使ったのは、
どうしてだったのか。当時のことは覚えてないけれど。
おそらく今のコイツにだけは偽りたくねえって思ったんじゃないんかな。
今改めて考えると。
「うーん……そっか。やっぱり―――ていな――――な?」
ぼそりと独り言を空に向かってこぼしていた結菜を見て。
「そうだ、なんか俺ばっか聞いてるからな。ちょっとした昔話でもしようか」
何かしなくっちゃと思った俺は、俺が僕になる話を始めた。
「え?うんいいけど」
***
時は更に遡り中学。
批判やそういうものを承知で正直に述べるならば容姿が可愛くない女の子から、
友達伝手で手紙を一度、別の女の子からは行動で一度。
合計二度告白まがいなことを受けたわけだが。
一度目はてめえで告白する勇気がねえならんなもん溝に捨てちまえと、
貰った手紙をその場でドブに投げ捨てる暴挙をした。
今考えると我ながらド畜生すぎる。惚れ惚れしちまうぜ。
二度目は壁に落書き。正攻法で勝てねえからってそりゃねえわ。
無視をした。第一てめえがいるからそのグループに話しかけてたわけではなく、
テメエじゃないやつらに話しかけるためにそのグループと仲良くしていたわけで。
つまるところお前はアウトオブ眼中だったんだよウスラハゲというようなことを態度でしめした。
やはり畜生である。
まあそんなこんなで可愛くない女の子から好かれないようにするには、胡散臭くアレばいい。
礼儀正しく、距離を感じさせればいいという結論に至った俺は一人称を僕にし、
丁寧な言葉づかいを心がけたのであった。
そのおかげか現在に至るまで可愛くない子に告白されることはなかった。
あ、いや一度あった。一度を除いて告白されることはなかった。
現在というのは現在だ。高校より先の時間軸においてのお話。
まとめれば、好かれないために胡散臭くあろうとした。
つまるところはその一言に尽きるのである。
***
そんなお互いの身の上を星空の下語り合った次の月曜日。
世界は彼女に優しくなかったみたいだ。
「彼氏いるのに他の人と行くのは浮気だよねっ!?」
「誘って断られたから他の人をさそったの!」
僕と祭りに行ったことを糾弾されたのだ。
まあ、そりゃそうだよねえ。
てめえがやったことは他人もやって当然ってのが人の考え方だからねえ。
つまるところ。第三者である俺は加害者として舞台に立たされたわけである。
なんでだよ!
まあ弁解したらすぐに終わったけれど。
誘われた日、当日の行動すべて包み隠さず話ゃ、はい、おしまい。
もちろん、あえて言わなかったこともあるが別に言わなくてもいいだろう?
お世辞にもきれいとはいえない星空のもと二人で語り合ったことなんて。
だから、ゆきを送ってすぐ解散したって話ですすめた。
『おいおいショウ先輩。何のための演劇部だよ。演技しなくていいのかよ。
悲劇の主人公をさ。ほら後輩に彼女が寝取られた役なんでしょ。
もっとしっかり演じろよ。作り込みが甘ェんだよ。
結菜より先に御戊誘ったってのは知ってんだよ』
だなんてそんな恐れ多い。できるわけがない。
ヘタレチキンにできるわけがないさ。
今?今は和を以て貴しとなすからやっぱり無理だろうね。
これが後々大きな罅になっていくであろうことは目に見えてわかっていた。
今回の事件から得た教訓は、
同じ部活やサークル、組織内で恋愛しちゃあいけない。
いざこざが起こりやすくなるからな、ということだ。
それは今でも俺の胸にしっかりと焼き付けていたはずだった。
はずだったのだ。
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