日常の朝
今日の分の投稿です
無機質に響くスマートフォンのアラームで僕は、ゆっくりと目を開けた。
なにかとても大事なことがあったような気がするが、それが思い出せなく、ひどくもどかしい。痒いところに手が届かず、孫の手でも使って掻き毟りたい気分だ。
最近やっと涼しくなってきたので、毛布を使用し始めたのだが、この時期ではありえないぐらいの寝汗をかいていて、ひどく驚いた。しかし、腕を見ると、僕の短い人生の中でも1、2位を争うほどの鳥肌が立っていて、どれだけ怖い夢を見たんだよ、と自分自身にゆるくツッコミを入れてしまった。
そんなことを思っている間に結構な時間が過ぎてしまい、慌ててその毛布の中から抜け出そうともがくが、体はまだ睡眠を望んでいるようで、なかなか抜け出させてくれない。
仕方がないからもうひと眠りでもしてしまおうかと思ったところに、階下からなかなか起きてこない僕にシビレを切らしたのか、母親から一つ
「さっさと起きて仕度しなさい。そろそろ起きないと遅刻するよ」
と、言っている内容は至極真っ当なのだが、朝の忙しさも相まってか怒鳴り声となって、僕にぶつかる。
「あ~」
僕は意味のない、浮雲のような返事を返して、一動作、一動作に時間をかけながら布団からの脱出に成功する。
出た瞬間に体が凍り付き全く動かなくなりそうな凍てつく風が、体を撫でた気がするが、いつも布団から出るときはそれだけ億劫なので、その億劫さが具現化したのか?とちょっとだけ頭の中にクエッションマークを浮かべただけで、僕は一つ伸びと、あくびをして家族が慌ただしく動いているのが分かるリビングを目指し、部屋を出た。
リビングで朝飯を食べている家族に一言「おはよう」の挨拶を交わしたが、返ってきた返事は「早くしなさい」のみだった。
準備されている朝食を搔き込む前に顔を洗おうかと思い、重い足取りで洗面所にのそのそと向かった。
洗面所で鏡に映った顔を覗くと、いつもより少し青白い顔が、僕を気だるげに向こうの方から覗いてくる。
寝癖も相まってボサボサ気味な真黒の髪、少し垂れ下がり見たもの、見るものを小バカにしているような目、そして全体的に纏っている、なにものでも嘲笑しているような雰囲気、なにからなにまでいつものままだ。この雰囲気のおかげで僕は幾度も怒られたものだ。
特になにもしていないのに
「お前俺をバカにしているのか?いい加減にしろよ」
と、難癖をつけられ、注意という名の暴力を受けたことも数回ある。
やはり運動部には、脳筋連中が多い。まあ、バカにしたこともあるが、なにからなにまで全部バカにしているつもりはないのだ。
運動は中学で時に、きっぱりと止めたので、現高校生活は細々と安定して過ごしている。いや、細々と安定して過ごしていた。あの女が来るまでは……。
こんなことを考えながら、ぼさっと鏡の前で突っ立っていると、後ろから
「お兄ちゃん、顔洗わないなら、さっとどいて。邪魔。
いっつも遅いんだから、私まで遅刻しそうなんだけど。邪魔。」
この短時間で二度も邪魔と言われるなんて、兄としての威厳はないのか。
だが、ここで言い返してもなにも得はないのは分かっている。
寧ろ時間を無駄にするだけだ。
しかもこの妹は、毎朝の日課でヘアーアイロンを使うであろう。横に充電してあるのが見える。
このヘアーアイロンを使いだすと、尋常ではないくらい時間がかかるのは分かっている。今ここで顔も洗えないと、ホントに学校に間に合わなくなる。それだけは実に避けたい事態だ。
「分かった。分かった。数秒で終わるから、顔だけは洗わせてくれ」
そう言って、冷たい水で顔を洗う。
やっと目が覚めたようで、すっきりとしてきて頭が冴える。
顔から水を垂らしたまま、後ろを振り向く。振り向いた拍子に妹に水がかかるが、そのぐらいはご愛敬だ。
妹がなにか小言を言っているが、気にしないでタオルを探す。
目を瞑っているからなのか、なかなか見つけられず、焦っていると、コロコロと鈴が鳴るような笑い声が聞こえる。
「はい」
可愛らしい笑い声と、女性特有の甘い匂いと一緒に手渡されたタオルをひったくり、顔を拭く。
やっと目を開くと、屈託のない悪気の全くなさそうな顔で笑う妹がいた。
僕は無言で、妹の髪を引っ掻き回して、少し笑いながら洗面所を後にした。
どうせ今から髪の毛を整えるからいいじゃないか。
後ろでは、かなり大きな声で僕を罵倒しているのが聞こえるが、無視を続けた。
そんなことをしているので、今日も遅刻ギリギリになってしまいそうだ。
慌てて朝食をかっこみ、制服に着替える。
その間に、妹や他の家族は、さっさと時間通り出ていってしまった。
僕は確実に遅刻になってしまう時間だと確認すると、もう急ぐことを諦めた。
今日もいつもの通りの遅刻だ。
なかなか遅刻癖を治せない。
あの女が来る前までは、遅刻しても別に良かったが、今では遅刻すると確実に面倒くさいことになってしまうのは分かっている。
僕は余計に重くなった足で、なんとか自転車のペダルを漕ぎながら、ゆっくりと学校に向かって行った。
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