邂逅(???)
久しぶりの連載小説で、生暖かい目で読んで頂けると幸いです。
その犬が加えていた物体は、彼女の顔の一部だった。
口の周りから血が滴り落ち、汚らしい体は血糊でべたついている。なにより驚くことは、その犬が僕ほどの大きさであったことだ。
犬は僕と目が合うと、ゆっくりと肉片を咀嚼し、赤黒く染まった牙を僕にみせつけ、不気味に笑った。
犬の口からは、恐怖と畏怖、そして背神感を脳髄に染み込ませるような、唸り声が漏れる。
それは、地獄の窯が煮立ったら、こんな音が聞こえるんでは、ないんだろうかと思わせられる。
この犬は地獄の番犬ではないだろうか、僕は天国も地獄も信じてはいないがそう思わさざるを得ない迫力だった。
僕の四肢は当分前から使い物にならないことは分かっている。
当然、こういった場面では体は動かないのだが、五感は逆にとても繊細になっているように感じられる。
犬がゆっくりと僕に向かってくる。
僕を獲物だとロックオンしているんだろうか。
大きい、大きい、獣は威風堂々と僕に近寄ってくる。
いや違う。
堂々とはしているが、まるでその獣の周りに重力がないような軽やかさで、僕という存在に詰め寄ってくる。
犬の顔が真近に迫ってくる。
犬の周りには、生が感じられない。
辺りには、僕の嗅いだことのない、精神が苦しくなってくるような臭いが充満してくる。
目と目が至近距離でぶつかる。
その時僕は、初めてその化獣がなんなのか、なぜ彼女があの化獣に笑顔で、喰われたのかが、少し分かったような気がした。
その化獣は、生を獲物だとすら思っていない。
死を仲間や友達だとすらも、思っていないのだろう。
先ほど、その犬の化獣を地獄の番犬に例えたが、この化獣は、その天国や地獄、はては神といったものから、全くの逆に存在する生き物であろう。
至近距離で見た目は、化け物のように脅かしいが、青空のように澄んでいた。
その化獣が、大きく、大きく、血に染まった口を開けた。
僕は、その口の中に、世界で一番美しい景色を見たような錯覚すら覚えた。
気づくといつの間にか、自分自身で、その化獣の口の中に入っていった。
僕に血がポタポタと垂れる。これは僕の愛した人の血だ。
今までとは違い、今ではそれに怒りは全く感じない。
寧ろ、感謝をしたいくらいだ。
その化獣が口を閉じるのが分かる。
僕の首筋に、化獣の牙が沈み込むのが分かる。
酷く良い気持ちだ。
僕は一言化獣に向かってこう呟いた
「ありがとう」と
そこで僕の意識は途切れた。
誤字や脱字、感想などをドンドン送ってくださるとうれしいです。
今日中にもう一話投稿するのでぜひお楽しみ下さい。
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