番外編 甘い甘いバースデーケーキ
それは、いきなりだった。
「もー、急に出てきてって言うから急いで準備したのに。」
もう、待ちあわせの時間から30分は待っていた。
真由は近くに合ったベンチに座り、スマホで時計を見る。そして、ため息。もう、何度ついてしまっただろうか。道東さんとは連絡もつかないのだ。
「…西島さん、おまたせ」
スマホとにらめっこしていた真由をよそに、道東さんはひょこっと現れ姿を見せた。
「………遅刻なんですけど。社会人として、どうなんですか?」
30分も待たされた真由は気分が良くなかった。
道東さんが忙しい人というのは知っている。なんてたって、彼は大きなプロジェクトがあるらしか、忙しいんだとか。
……でも、だ。連絡ぐらいしてくれもいいじゃないか。
「ごめん、ちょっといろいろあってさ。じゃあ、行こうか。」
何やら意味ありげにニヤニヤとしている道東さんは真由の手を引っ張る。
しばらくすると電車に乗り、ある建物の前についた。
「……マンション…?」
「俺の住んでるところ」
「えぇ?な、なんで」
さらに訳がわからず真由は腕を引っ張られる。
エレベーターで何階か上がり、いくつかの扉を過ぎると2人は止まった。
「さ、ここで少し待ってて」
ガチャと鍵を開けて部屋に入ったと思えば、道東さんはドアの隙間から顔だけだす。
「動いだらダメだよ」
ーーいや、動きませんから。
変にテンションの高い道東さんを遠目にみて、また一つため息をつく。
一体何があるんだろうか。もしかして、部屋を片付けている?そんな事ならあんなテンションにはならないだろう。
するとドアが開ける音がした。
「おまたせ」
「ほんとにですよ」
真由はぶつぶつ文句を言いながら部屋に上がる。すると、まっすぐ突き当たりにある扉の横で道東さんは待っていた。
「……?開けないんですか?」
「いや、開けて欲しいんだ。」
相変わらず、よくわからない人だ。疑問に思いながらもドアノブに手をかけ、扉をあけた。
「お誕生日おめでとう!」
テーブルには火がついていないローソクが立っているホールケーキ。丁寧にお皿とフォークが並べられていた。
「なんで、知ってるの」
そう、今日は紛れもなく真由の誕生日であった。
「あの合コンで一緒だったやつが恵梨香さんの連絡先知ってて、それで聞いてもらったんだ。お姉さんにね」
にかっと笑い席を勧めた道東さん。真由は若干放心状態で椅子にすわった。
まさか、こんなことがあるとは、知っているとは思ってなかったのだ。そして、待ち合わせの時間に遅れたのもこのためだろう。そう思うと胸が熱くなった。
「はい、ついでに好みも聞いたからさ。食べてみて」
綺麗にカットされたケーキが目の前に置かれる。
フォークを持ち、ケーキを1口口に入れた。
「……うん、美味しい」
ふんわりと甘さが口の中に広がり、とろけた。甘ったるくもなく、真由好みだ。
「……今日の遅刻、これでチャラにしてあげる。」
パクリとまた1口食べる。
「あはは、それはありがとう」
照れくさそうに笑う道東さんは照れる真由を見て自分もケーキを食べ始めた。
そして、真由は思うのだ。
ーーこの笑顔にハマってしまったな、と。
「うん、すごく甘いな。」
道東さんはそういいながらもあっという間に食べきってしまった。