8、末子の変化
アーテルは食器を片づけながらも少し息をついた。先ほどから考えていることが、ぐるぐると頭をまわり手元まで影響が出始めていたのだ。
「・・・やめましょ、考えるのは」
わざとらしく明るい声を出して洗い終わった食器を拭き始める。先ほどからアーテルの頭を占めていたのは、アーテルが仕えているここルウェリン家の末っ子であるフェリシアのことだった。五歳の誕生日の日を境に明らかに変わったフェリシア。
(成長したと考えるのが一番なんでしょうけど、少し寂しいし、なんだかちょっと様子も変なのよね)
元々フェリシアは大人しい子供だった。年の離れた弟妹を過剰なまでに可愛がるギルバートにされるがままであったし、妹の関心をかおうと少し意地悪なことをするデュランには何も反論せずにただただ泣くだけだった。あまりに大人しいいい子だったのをいいことに、リリアンは心行くまで娘を着せ替え人形にしていたほどに。それがあの日を境にフェリシアは変わったのだ。
ギルバートとはあまり接していないからわからないが、デュランには言い返すようになったし、それが上手くいかないなら上手く無視を決め込むようになった。デュランが、そのことにどれだけショックを受けていたのかはきっとフェリシアは知らないだろう。おっとりとしたリリアンの代わりに、厳しいアーテルを苦手としているはずなのに、夜にこっそりとどうすればいいのか聞きに来た時は思わず笑ってしまった。
リリアンが着せ替え人形にしようとすると、何か上手い事言って逃げていく。そう言えば、あんなに大好きだった人形遊びもしなくなってしまった。その代わりにこの頃はよく教会へ足を運んでいるようだった。けれどこちらに関してはあまりアーテルは心配していなかった。
(これは血筋よね。リリアン様もそうだったし、ギル様もデュラン様もあれぐらいの年になったら何かに目覚めたように勉強をこっそり始めていたもの)
実はアーテルは昔からリリアンの側で仕えている。それこそ、リリアンが赤ちゃんだったころからの付き合いなのだ。リリアンがフェリシアと同じぐらいの年だったころを思い出して、アーテルは思わず頬をほころばせた。
リリアンはフェリシアとは正反対の少女だった。お転婆で、すぐに家を抜け出して周りに心配をかけるものの、本人はにっこりと笑っている。そんな太陽みたいな少女だった。周囲を振り回すのが大の得意であり、アーテルも何度もリリアンに振り回されたものだった。
(ああ、でも周りを振り回しているのはシア様も同じね。ふふ、自覚がない分シア様の方が少し性質が悪いかもしれないわ)
思考の殻に閉じこもることが多いフェリシアだ。周りを振り回しているなんて全く思ってもいないだろう。そこがフェリシアのいいところでもあるのだが。
「いけない、また手が止まってるわ」
苦笑を漏らしながらもアーテルは、残りの食器を全て拭いて厨房から出た。部屋に戻れば、手芸道具を持って恥ずかしそうに頬を染めたデュランが待っているはずだった。
(今度はちゃんとご自分の手作りだといってぬいぐるみをお渡しできるといいのだけど)
態度以上に妹想いのまだまだ可愛らしいデュランの思いが、フェリシアに届けばいいと願いながらアーテルは足早に部屋に向かった。




