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6、教会

 魔族だったという記憶を取り戻して二カ月、フェリシアは村の中心にある教会へ来ていた。


「シア嬢、もう体調は大丈夫か?」


 教会に入ってすぐに居住区の方から出てきたのは、この教会の司教だった。村の子どもたちに魔法をちょくちょく教えている人で、フェリシアが魔力暴走した時も見に来てくれたのだ。年の功はおそらくフェリシアの母や父と同じぐらいで、結構優秀な司教さんだと噂で聞いたことがある。


「はい、お手数をおかけしました」


 ぺこり、と頭を下げて言えば、司教は少し驚いたようにフェリシアを見てから慌てて手を振った。


「いやいや、嬢ちゃんが頭を下げる必要なんてないさ。困ったときはお互い様だし、まだ嬢ちゃんは子供だからな。魔力暴走なんて誰かが責められることじゃない。それで?今日はどうしたんだ?」


「少し本を見たいな、と」


 教会にはこの司教が集めた本がずらりと置いてある部屋があった。村人に向けて、小さな図書室として開放してくれているのだ。記憶を取り戻し、やっと落ち着いたフェリシアが一番最初に取りかかろうと思ったのは勉強をすることだった。


 残念ながらフェリシアは記憶を取り戻すまではあまり勉強をしていなかった。それというのも、この国では子供が勉強を始めるのは六歳からと決まっており、それまでは思いっきり遊ばせるのが良しとされているからだ。だが、今のフェリシアは子供の遊びなど退屈そのものでしかない。遊ぶ時間があるのなら、その代りにこの人間界についての知識を吸収したかった。


 司教は何を思ったか、ほうほうと頷くと何やら意味ありげな目をフェリシアに寄越して来た。子供らしくないとでも思われているのかと、フェリシアは思わず体を固くして司教を見上げる。


「女の子って言ってもやっぱりルウェリンの子どもだな。兄貴たちと同じことしに来たんだろ?あいつらも五歳をすこし過ぎてからかな、すっと大人になってこっそり勉強を始めてたんだ」


「兄様たちが、ですか?」


 意外なことを言われ、思わず聞き返せば、楽しそうに司教は笑って頷いた。曰く、周りの友人たちにばれないように朝早くと少し遅い時間に教会に通っていたんだとか。


「ああ、だから嬢ちゃんも好きなだけここで勉強していきな。根詰めすぎない程度にな」


「はい」


 もう一度頭を下げて図書室へ入っていくフェリシアを見て、司教は密やかに息を吐いた。元々フェリシアは大人しい性格だったが、あんなに大人な子だっただろうか。


(大人しい子だったが、もっとこう・・・子供みたいな目をしてたと思ったんだが・・・)


 大人しい子というのと、大人びたこと言うのは似たようで全く違う。そして今のフェリシアは、年よりも幾分も大人びて見える子だった。






 昼下がりの心地よい日差しが入り込む図書室で、フェリシアは熱心に本を読んでいた。窓枠に軽く座るように寄りかかり、文字を追いかける。ぺらりぺらりとページをめくる指先は、水分を紙に奪われてしまい乾燥しきっているが、読書を止める理由とはならなかった。


 近くのテーブルには無造作に幾つもの本が積み重ねられている。この国の常識が掛かれたベストセラーから、古代研究のマニアックな本まで、置き方も無造作であれば本の内容も全く統一性はない。ただフェリシアの興味を引いたことが全てに共通していることだった。


 ここ数日はフェリシアにとって非常に有意義な時間となっていた。朝起きて軽く体を動かし、泉で動物たちと戯れてから教会へ足を運び図書室に籠り切る。全く持って五歳児の生活ではないが、知識を吸収することはそれを気にする暇もないぐらいに楽しい事だった。どんな時でも本の中にはフェリシアの知らない世界があって、本を読めばフェリシアにその世界を少しだけでものぞかせてくれる。フェリシアにとって、本とは何にも代えがたい経験の一つであった。


「・・・ふぅ」


 不意に集中を切らしたフェリシアは深いため息とともに本を閉じた。この数日、フェリシアはかなりのことを知ることができた。この国の名前がアルビオン王国と言うこと、王都は魔法都市と呼ばれるほどに魔法が発展しているということ、ここの村、ネグロ村に一番近い地方都市はズワルトゥ都市であり、結構重要なところであること。そのような地理的なことから、魔法や魔族のこと、また歴史のことなど多岐に渡ることがフェリシアの脳内に叩き込まれた。


 そしてわかったことが、かなり人間は魔族へ悪感情を持っているということだった。


(・・・黒髪赤目を見たら即刻殺すだなんて。第一、赤目の魔族は中流以下の魔族なのに、情報があやふやすぎ)


 魔族が黒髪赤目が多いのは事実だ。だが、赤目ではない魔族もいるし、そもそも黒髪すら持っていない魔族もいるのだ。フェリシアだって、瞳の色は深紫だったのだ。


(それと思った通り、人間は魔族とは違う魔力の使い方をしてる。魔法、というよりも魔術みたいね)


 魔法と言うのは、魔族がぽんぽんと適当に使う魔力の使い方である。これがこうである、なんて原理を全く持っていない。それと反対に魔術は、原理をしっかりと定めて現象を表わす魔力の使い方だ。魔族は基本的には自分が思う様に魔力を使用し、現象を起こすので‘魔法’を使っていることになり、人間はそんな器用なことをすることはできないので原理が定められた‘魔術’を使用するのだ。


 魔族が魔術を使用することもあるが、そう言う場合は一つの国丸ごとどうにかする、とか川の流れを変える、なんていう大きな現象を起こす時なので、滅多に使わない。そもそも、それほどの現象を起こせる魔力を持つ者は数えるほどしかいないので、もうここ何千年も使われていないだろう。それに魔術書をちらりと見た限りは、魔族が使用している魔術とはまた少し違うようだ。人間が使用しているのを今の魔術とすると、魔族が使用しているのは古代魔術、というような感じだ。


「気をつけなきゃ」


 フェリシアは、趣味で小さな魔法でも古代魔術で発動させる、というようなことをよくしていた。魔族と闘うときに、相手の意表をつけるので楽であるし、圧倒的に魔力消費も少ないからだ。ただメリットとして、すぐに魔術を発動させることはできないのだが。


 とにかく、人間は人と違うということに敏感らしいので気を付けたことに越したことはない。そう結論を出したところで、フェリシアは窓からそっと太陽を覗いた。


 魔界では決して見えることのない光は、夕時間近だと地上の人々に知らせている。


「・・・今日のお菓子はかぼちゃパイだから早く帰らなきゃ」


 アーテル特製のパイの匂いが蘇り、フェリシアは少し急いで本を片づけはじめた。







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