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4、妹

いつもと変わらぬ時間に、アーテルに連れられて来たフェリシアを見て、デュランは内心ほっとしていた。そしてその手の中に自分が上げた、リスのぬいぐるみを見て頬が緩みそうになるのを慌てて引き締める。


 母譲りのふわふわとした琥珀の髪をゆるくくくり、ふうわりとしたドレスを着ているフェリシアは文句なしに可愛らしい。デュランの自慢の妹だった。村の人や、冒険者たちにフェリシアの話をしては、『デュラン坊はフェリシア嬢ちゃんのことばっかりだ』と笑われるぐらいだ。


 けれど、デュランはフェリシアに対してはあまり優しくしてやれなかった。


「今日は外に出るなよ、シア」


 三日前に勝手に外に出てアーテルにこってりと絞られたフェリシアは、再び部屋から出るなといいつけられていたのだ。フェリシアはその言葉を聞くなり、少し目の端を上げたもののふん、と顔をそむけてしまった。いつもならここで泣くはずなのに、その反応に逆にデュランが泣きそうになる。決しておくびにも見せないが。


 第一に、デュランがフェリシアに少し意地の悪いことを言うのは、フェリシアが大人しすぎるという理由があった。元々、フェリシアは人見知りの毛があって、あまりはしゃいだりする子ではなかった。他の子どもたちのようにけらけら笑ったりしないし、ぎゃあぎゃあ泣いたりもしない。流石に両親には感情に素直になるが、兄であるギルバートやデュランとは一歩離れた位置にいた。ギルバートは子供の扱いが上手く、少しづつフェリシアを手懐けたものの、デュランはそんなに器用ではない。けれどフェリシアに感情を向けてほしい。その結果が意地の悪いことをするということだった。


 最初にちょっと意地悪を言ってフェリシアが泣いた時は、非常に感動したものだ。やっとフェリシアがデュランを見てくれたのだと。それからというものの、ちょくちょく意地悪をしては泣かせてフェリシアがデュランの存在を知っているということを確認する。そんなことをしているうちに、フェリシアから感情を向けてもらえる方法がそれしかわからなくなってしまっていたのだ。笑って欲しいし、甘えてほしいのに、泣かせることしかできない。でも泣かなかったら、フェリシアはデュランに何も見せてくれない。もんもんとしているうちに、フェリシアは五歳を迎えた。


 五歳の魔力流しの慣習で、魔力暴走を起こしたフェリシアが倒れた時、デュランが一番騒いでいた。母はあらあら、と笑うだけだったし、父は間違ったか、なんて首をかしげていた、長兄は父に怒りながらフェリシアを抱きとめたがそんなに焦りを見せることはなかった。デュランだけが、血の気を引いた顔で呆然としていたのだ。


 魔力暴走を起こしてからというもの、フェリシアは変わってしまった。いい方向にか悪い方向にかはわからないが、デュランにとっては悪い方向であった。大人しかったフェリシアが、輪に掛けたように大人しくなり、更に泣かなくなってしまったのだ。両親やアーテル、長兄にもあまり表情を見せていなかったし、どこか冷静な瞳をするようになった。そう、まるで戦場に向かう父のような瞳を。


 三日前だって、フェリシアが一人で泉に行くのは分っていた。だがフェリシアは、彼女自身が考えているよりも体の調子が良くないのだ。泉で倒れたらそれこそ一大事だろう。心配で仕方なくて、デュランは一人稽古が終わってすぐに泉に向かってそこで水浴びをしてフェリシアを待ち構えていたのだ。母やアーテルに禁止されて、ずっと会えていなかったフェリシアに会いたかったというのもある。今日ぐらいは少し泣かせてからは優しくしてやろうと思っていた。


 だから、フェリシアに言い返され睨みつけられた時は心臓が凍り付いた。このままではフェリシアに嫌われてしまう。そう思うと、今まで出てこなかった優しい言葉がすらすらと出て来た。フェリシアはどこか不思議そうな顔をしていたが、内心デュランは舞い上がっていた。抱き上げた妹は本当に可愛らしかったのだ。リスのぬいぐるみを持てばもっと可愛らしいだろう。これで笑顔を向けてくれれば、悔いもなく死ねること間違いなし、と。


「あらあら、シアちゃんは強くなったのねぇ・・・どうするのかしら、デュラン?」


 反応せずに席についたフェリシアを見て、リリアンがにやにやとデュランの方へ意味ありげな視線を寄越す。少し抜けたところもある母親だが、こういうところはしっかりと知っているのだ。くすくすとアーテルも笑っているので、彼女たちは楽しくて仕方ないのだろう。舌打ちをしたい気分にかられるが、ここでそんなことをすればアーテルがたちまち鬼の顔に変わるのは目に見えている。


 苛めても、優しくしても反応を見せなくなった妹。これからどうしていこうかを考え、デュランは頭を悩ませるしかなかった。



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