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リバースコイル  作者: 永啓優
聖翔高校怪異譚 2
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第四話

7/23 気がついた誤字脱字の編集を行いました

 ◇ ◇ ◇

 

 たとえるなら一本の矢、鋭いが簡単に折れてしまう、そんな儚さを感じたのだった。



 その娘が屋敷に来たのは、嵐の夜のことだった。

 聞けば自分は勇者に選ばれた者だと名乗り、旅の同行者として噂に名高い西森の魔女を探しているという。

 宮廷魔術師を辞し平穏を求めて森に隠遁すること10年余りになる、事情は分かったが同行の申し出は断った。

 嵐もいまだ激しく無碍に追い返すというのもためらわれたため、その日は部屋を貸すことにした。

 簡単にパンとスープを温めて振舞うことにした。


 「これでも食べなさい、暖まるよ」

 「ありがとうござございます」

 礼儀ただしく頭を下げると、スープを口に含む。


 「どうしたのかな」

 3口ほど進めたところで、娘の手が止まり何か考え込む表情が見て取れた。

 「いえ」

 微笑みを浮かべながらそう返答すると、娘は食事を続けた。

 

 食事のあと、お願いがあると娘が言って来た、当然先ほど断られた同行の話だろうと思われた。

 

 「あの、スープの作り方教えてもらってもいいですか?」

 驚いた、隠遁してるとはいえ世間の噂を知らぬほど関わりを絶っているわけではない、魔王の現出で魔物が活性化し世の中は混乱している、それが故の勇者であるはずの娘がスープの作り方を請う。


 「ああ、いいさ」

 つい答えてしまった。


 「今日は遅い、明日教えてやることにしようか」

 「ありがとうございます」

 本当に礼儀正しい娘だ。

 先程の微笑を思い浮かべる、若い、いや若すぎるといっていい。


 「年はいくつなんだい?」

 「17です」

 見た目よりは年を取っている様だが、その本質はまだまだ幼いということが見て取れた、礼儀正しさの裏にはいまだ指導者の下で教えを請うている者の逡巡があった、微笑みの裏には他人が悪意を持っているなど考えていない清らかな心があった。

 そのときにはもう私の腹は決まっていたのかもしれない・・・。


 ◇ ◇ ◇


 「むー」

 だるい、これはまた「あれ」か、久しぶりだというわけでもないけど、寝覚めが悪くなるのは何とかならないものだろうか。


 思い返せばあの子には教えたんだなぁ秘伝(というほどでもないが)のレシピ・・・

 ほとんど教えることもなくすぐに覚えてしまったんだっけ、まるで答え合わせをしてるみたいだったなぁ。

 「あれ?」

 そういえば、勇者のエピソードは今までもいくつか見たことがあるが、はっきりと顔を見たのはこれが初めてだった、大体が勇者は前を走っていたり歩いていたり後姿しか見ていなかったのだ。

 ちょっとまった、、なんか覚えがある顔というか・・・あれは私じゃなかろうか、つまり転生後の今の私。

 え、え?

 どういうことだろう、今年9月14日に17才になるのだけどそのあと向こうの世界に行くのだろうか。

 ゲートのようなものがあったわけだし、行けないなどど否定できない。

 判断材料として今まで見た勇者のエピソードがあるけど。

 えーと、身体能力は人間離れしていた、うちの妹でもあれには勝てない・・・、私じゃない感じというか人外、勇者補正と思って気にしてなかったけど。

 やたらと面倒ごとに首をつっこんでた、あの性格は・・・、私っぽいな、これが妹なら君子あやうきに近寄らずと慎重派だ。

 使っていた技や魔法は何度も繰り返して極めるようにしていた・・・、これも私っぽいな、妹と比べると私は頑固というか凝り性というか。

 他には何かあったかな・・・

 整理しながらゆっくり思い出してみるしか無いだろう。

 もしかしたら、次の「あれ」でもう少し情報がえられるかも知れないし。


 とりあえず着替えよう。

 すでにゴールデンウィーク後の中間テストも終わって5月も半ば、2年生は修学旅行の話で持ちきりだ。

 私はというと初海外で緊張する、と言うのもあるけどその前に『奴』をどうするかで昨夜は遅くまで悩んでいた。

 身支度を済ませて階下に降りると、しんと静まり返っている。

 両親は仕事柄、家を空けることも多い。

 妹は部活の朝練だとか言っていたか、なんでも経験者ではないのにかなり強いので、上級生に混ざって稽古しているんだとか。


 簡単に朝食の準備をしながら、テレビをつける。

 今日の天気は曇りのち雨、この界隈ではニュースになるほどの事件もなく、政治経済はいつもどおり。

 食事の後いい時間になってきたので、支度を済ませて外にでる。


 ぎっこぎっこと自転車を走らせていると、もうそろそろ校門というところで鈴ちゃんが歩いているのを見つけた。

 よし、合流することにしよう。

 鈴ちゃんに追いついて少し前で止まり、自転車から降りて挨拶すると、にぱっと笑顔になって

 「りっちゃん、おはようです」と返してきた

 「旅行楽しみだねぇ」

 「たのしみです」

 旅行の際の自由行動の班分けは、クラスごと好きなもの同士が認められたため、いつものメンバーがそろうことになった。

 つまり、香川桃子かがわももこことトーコを班長に

 私、水沢理麻みずさわりま

 ここにいる桧山鈴ひやまりん

 三崎春奈みさきはるなの計4名。

 この時期に修学旅行というのも、進学校ゆえ夏休み前かつ中間後、期末前、あたりから決められたらしい、6月じゃダメだったんだろうか・・・。


 「行きたいとことか考えてきた?」

 「街ごとで1つは考えてきたです」

 「ほうっておくとトーコがコースを決めちゃうからねぇ」

 「しかもミーハー路線なのは間違いないです」

 さすがに付き合いが長くなってくれば、お互いよく分かってくる、『奴ならやる』が共通認識になっている。


 校門をくぐって少しのところで

 「先に行って自転車置いてくるね」と鈴ちゃんに声をかけて

 「じゃぁ、教室で」と軽く手を上げる。

 鈴ちゃんが軽く手を上げて了解の合図を出すのをみてから、自転車に乗ると校門からの上り坂を加速して上がった。


 自転車を置いて、玄関へと急ぐ・・・

 あの扉はいまだ閉じられたまま、文字の修復もされていないようで、そういった意味では期待はずれだった。

 術者は学校を去った後なのだろうか、いまも潜伏して様子を見てるのだろうか。

 そもそもゲートだったのだろうか、今朝の「あれ」のこともあるし、いまさらではあるのだけれどもよく調べなかったのは失敗だったかも。

 

 色々考えながら教室に上がると嫌でも目に付くのが、『行動予定の提出は今週いっぱい』の張り紙だった。

 昨日の約束で、今日の放課後に残って決めることになっているのだけれども・・・。


 「みんな行きたいとこ決めてきた?」

 先に集まっていたらしいトーコと春奈のところに近寄ると、挨拶よりも先にトーコが聞いてきた。

 手にはアイドル雑誌やら映画の案内やらを持っている。

 私の後についてきた鈴ちゃんもその様子を見て、やれやれと言った顔で私と春奈に目を合わせてくる。


 「なになになによ、みんなして意味深な目線をかわして」

 「とりあえず却下」

 「そんなひどい」

 昨日の夜に悩んでいたとおり、放課後はトーコを説得するのが私の仕事ということになるのかなぁ。


 さて、それにしても色々考えることがあるね。

 旅行のこともそうだし、「あれ」のこともそうだし・・・「水沢」

 一人の頭ではどうにもならないかもしれない・・・「おーい水沢」

 「水沢ー」

 あ、いけない、考えに夢中で呼ばれてることに気がつかなかった。

 背筋に嫌な汗を感じながら、教師の顔色を伺う、いったいどれくらい無視状態だったのだろう。

 幸い寝ていたわけで無いためなんとなく授業内容は分かる、数学の問題を解いてもらうとかだったような。


 「すみませんでした、どこでしたでしょうか?」素直に謝っておこう。

 「旅行前でうかれるのは分かるが、集中するように、黒板の2番目だ」

 うん、授業中は考えないようにしないと、と思うけどなかなか難しいものだね。


 その日は授業中ふらりと考え始めてしまっては、いけないいけないと元に戻るを繰り返すことになってしまった。

 当然、昼休みなどこんな感じで・・・


 「りっちゃん」

 「んー」

 「やっぱりこのロケ地ははずせないと、あたしは思うわけだ!」

 「んー」

 「でもー、そこに行ったらー他は回れなくなっちゃうねー」

 「んー」

 「りっちゃん聞いてるですか?」

 「んー」

 「りっちゃんいつもの脳内会議です?」

 「んー」

 「会議が終わるまでー、いつもより長いよねー」

 「んー」

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