第二話
7/23 気がついた誤字脱字の編集を行いました
・・・失敗しただろうか。
トーコは両手でやれやれとジェスチャーを送ってきた、言いたいことは残念だとか、期待はずれだとかそんなとこだろう。
まぁ、あいうえお順で先に自己紹介したトーコの「演説」はここまでの誰よりも光っていたけれども。
パチパチと拍手がならされ、とりあえず大失敗というわけでもなさそうなので、そのまま席に着くことにする。
ついさっきの春奈や鈴ちゃんよりはましだと思うけどなぁ、名前しか言ってなかったし・・・。
その後、全員の自己紹介がおわり、最後に担任の大垣先生の自己紹介が始まった、初顔合わせの先生だしちょっと興味あるなー。
「大垣早苗、担当授業は英会話です」から始まり、高校時代のエピソード(ここの卒業生だそうだ)、大学のこと(男子生徒より彼氏はいたんですかとの声がかかるが、スルー)、1年留学したイギリスの大学のこと、今年の卒業生は手がかからなくていい子たちでした。
まで話したところでチャイムが鳴って、あわてて、「明日の予定やこれからの予定をお話します」となった、そういえば聞いてなかったね。
他のクラスから遅れること15分、私のクラスも本日は解散となったので、早速旧交を温めることにしよう、といっても妹と待ち合わせがあるから手早く済ませないとね。
「ちょっとトーコ、さっきのやれやれはなにー、鈴ちゃんや春奈と比べてひどくない?」
「鈴ちゃんは気の弱いとこも自己紹介できてたからあれで完璧、るなー(春奈のことをトーコはこう呼ぶ)は笑顔がかわいいほんわか癒し系がわかったからあれで完璧」
「・・・気の弱いとこって、はうー」
「トーコちゃんはすごかったねー」
ふむ、説明を聞くとあれでいいのかとも思える、とすると・・・
「私は何が伝わらなかったというのかな?」
「そりゃぁ、腹黒いとこ・・・って顔はやめて私女優よっ」
殺気に気がついたらしい、トーコが両手で顔をかばう仕草をする。
「・・・笑顔が怖いです」
「りっちゃん、どーどー」
こいつらとは一度じっくり話し合う必要があるんじゃないだろうか。
「じゃぁ、私は妹と約束があるから」といって別れようとすると
「あの妹さんかい?」
「その妹よ」
トーコは事情通で知られていて、話し上手で聞き上手だ、当然、妹がこの高校に来ることも以前に話している。
「体のほうはもう平気なんだっけ?」
「今は私より頑丈よ、悪かったのは小学生の低学年のとき」
「そうなのか、ちょっと気になることがあってね」
「というと?」
「このあたりに、といってもあちこちばらばらだけど、追いかける影って変質者の噂があってね」
「ふむ?」
「走って逃げれば逃げられるって噂だから、妹さんがまだ病弱だったらって思ったんだけど、心配無用だね?」
「今なら私が追いつけない勢いで逃げていけるね」
うちの妹は運動神経抜群なのだ。
「あと、ありがとね」
トーコはトラブルメーカーなところも多いが色々気を回してくれる、今いる4人の中でもリーダー的な存在だ、私はその参謀という地位で定着している、前世も宮廷魔術師だし成長して無いのかもしれない。
「・・・追いかける影って、なんだか怪談みたいです」
「怪談か、怪談といえばこの学校にも怪談があるよ」
トーコが語るにはこうだ。
冬休み・・・用事で登校した生徒が玄関まで来ると、開かずの扉が開いていた、不審に思いつつもそこを通る必要は無いので、下駄箱のほうへ曲がるとき、目の端に映った扉から、なにか影のようなものが這い出してくるのが映ったように見えた、後ろを確認するがそんなものは見当たらず、気味が悪いのでその場をすぐに去ったという、用事を済ませて帰るときには、開かずの扉はいつもどおり閉まっていた。
「で、オチは?」と私がきいてみると
「以後その生徒を見たものはいないとかはどうだろう?」
「・・・・(涙目)」
「開かずの扉ってー、玄関まっすぐのはじっこの扉ー?」
「そうそうそれそれ、ちなみに今朝は閉まってたよ」
まぁ、トーコの創作なら実害は無いだろう、そもそもこの学校の歴史は浅い、なんと20年ほどしかない、この学校内の怪談話なんて始めて聞いたようなものだ。
件の扉も来訪者向けの下駄箱の端にあり、使う必要が無いので普段は開けていないというだけだろうし。
「そろそろ、行かないと・・・それと鈴ちゃんのフォローちゃんとしてよ」
と言い残してその場を立ち去ることにする。
「おう、じゃまた明日」
「またねー」
「・・・」
鈴ちゃん・・・残していくのがためらわれるくらい怖がってるなぁ。
妹と待ち合わせの玄関へと急ぐ、だいぶ遅くなってしまったけど怒ってないだろうか。
「おそいよー」
「ごめんよー」
やっぱり怒られてしまった、ちょっと話し込みすぎだったね。
「何度か、おねえちゃんのクラスの人だと思うけど声かけられたよ」
ああ、そりゃそうだろうなぁ
「なんていってた?」
「さよならーってだけだったから、同じように返しておいた」
ふむ、彼らはどう思ったのかな、ちょっと興味のあるところだね。
外履きに履き替えて、玄関エントランスへ出ると、自然と「扉」のほうへと目が行ってしまった。
「どうしたの?」
「うんちょっと、気になってね」鈴ちゃんの怖がる姿が脳裏にちらつく。
近寄ってみるけどただの扉だ、不審な点といえば、使いにくいこの位置になぜつけたのか、くらいのものだけども・・・
ちょっとためらっってしまったがノブを回してみる・・・回らないね。
というか埃が手にべっとり、ポケットティッシュでいまさらながら掃っておく。
「開かない扉なの?」妹が聞いてくる。
「こんな不便な場所にあるしねぇ」
すばやく、周りを見る、教室で少し時間を食ったせいか妹以外に人影は無い。
では、私には前世があると確信する、最大の秘密のお披露目と行きますか。
「里香、先に自転車のとこまで行っててくれる?」
と妹に声をかけると
「力仕事なら、私がやろうか?」
立て付けが悪い扉、とでも思ったのかそう返してくる。
「んー、私の力で開けられないなら使えないわけだし」
妹の言葉に乗って答えた。
「それもそうか、じゃぁ先に行ってるね」
妹の姿が駐輪場のほうへと消えるのを確認して、もう一度周りを見回す。
誰もいないことを確認すると、ポケットから小さなはさみを取り出して髪を少し切り取る。
詠唱-アンロック《解錠》-
私の最大の秘密。
そう、私は魔法が使えるのだ。