第一話
◇ ◇ ◇
その娘、自称占い師に出会ったのは偶然であったのだろうか。
はぐれてしまった黒目黒髪の娘を探し、教えられた食堂で確かに探している特徴どおりの娘はいたが
探していた人物ではなく奇妙な服装の占い師のことだとすぐに分かった。
目が合った彼女は私を呼び寄せると、「占って行きませんか?」と自己紹介を話し始めた。
店を構えるというわけでもなくふらりと立ち寄った食堂などで、気まぐれに占いを行っているらしい。
どうせだめでもともと「御代は、この一食分でけっこうですわ」とのことだったので、占ってほしい旨を告げる。
「まず、私が行う未来視ですが、基本的に助言という形ですので、何もしなければ未来視のとおりになるものではありません」
「では、知りたいことをおっしゃってください」
彼女と西の森ではぐれて1日、目指していたこの町にまだ姿を見せないことに、探しに行くべきか留まるべきか判断をつけかねていた。
占い師は占いにありがちな道具も、呪文もなしで一瞬両目をつぶった後すぐに助言とやらを伝えてきた
「あなたは・・・命を懸けて守る、これは避けられない、伝えるべきことを伝えておくこと・・・後悔の無いように」
そこまで言うと占い師はまたその黒い両目をつぶり。
「・・・太・・・ちる方・・背に・・・ああ、・・ほ・・日は・・・・たのね」
先ほどと違い、聞き取れないほどの小声でなにかをつぶやいた、そしてぱっとその両目を開くと
「助言を申し上げますわ、西門にて目立つようにして待てばいいでしょう」
聞き流すことは出来ない言葉を言っていた
「命を懸ける・・・?、先ほどの助言はいったい?」
「後悔をなさらないように・・・ですわ」
その声は食堂の入り口から聞こえた、いつの間に席を立ったのか、そのまま彼女は外へと消える。
まぁ、追いかけても見つけることは出来無いのだろう、支払いを済ませ西門へと向かうことにする。
◇ ◇ ◇
「っは・・・」
夢だった。いやこの感触は・・・「あれ」か。
私には前世がある、などというと必ず引かれてしまうのだが、あるものはしょうがない・・・。
良くある小説だと、ほとんど非常時に断片的なフレーズしか思い出せないというのが一般的だ、また別のパターンだと前世の人格を受け継ぐほど何もかも思い出せるというのもよくある、私の場合、その中間という感じで、今みたいに夢の中でエピソードが体験できる、いつからかそんな夢を「あれ」と呼んで普通の夢と区別していた。
起きた後もはっきりと思い出せるとか、自分として登場する人物が固定されているとか普通の夢では無い特徴があるとはいえ、夢だけで前世があると思ってるのかというとそうではない、もうひとつ私には秘密がある。
うーんでも何か引っかかる、「あれ」特有の脱力感はあるものの・・・ふと壁にかけた制服に目が止まる。
ああー、そうかそうか奇妙な服装、この制服じゃん。
こりゃ普通の夢確定かな、だるいのは寝つきが悪かったからだろう。
「・・・おねえちゃーん」
いつも早起きの妹の呼び声が聞こえる、時間は・・・っと、我が妹ながらいい時間を心得ているな、うんうん。
手早く着替えると、妹の待つ階下へと降りた。
「かあさんたちは?」
「詳しくは・・・でも戸締りと出かけるときは遅くならないようにって」
「ふーん」
テーブルには、妹お手製サラダとスクランブルエッグ、トーストの朝食が並んでいる。
じゃぁいつもどおりに夕食は私の当番かな、朝は作ってもらっちゃったし。
・・・洗い物も済ませ、身支度も整えると、ちょうど登校の時間だ。
「・・・おそいよー」
いや、ちょっと遅かった、とはいえ学校までは徒歩で30分もかからない、行きは全部上りになるが自転車なら10分といったところだろう
「今日から一緒の高校だねぇ」
妹は一学年下で今日から高校生だ、先に高校生になった私をずいぶん羨ましがっていた。
自転車を並べて坂道を走る、しばらくすると校門が見えてきた。
私立聖翔高等学校、ブレザーの制服がかわいいと近隣では有名らしい、着ている方としてはまぁダサいよりはいいけど・・・
「じゃぁ、帰りにスーパー寄って帰ろう」と約束して妹と別れる。
クラス分けはB組になったようだ。
「りっちゃん、はよー」この声は春奈か、あいかわらずぽやっとした子で、まぁ癒し系に分類されるだろう、前学年でも一緒のクラスの友人だ。
「おはよう」挨拶すると
「りっちゃんと一緒のクラスだよー」と返してきた。
「なら一緒に上がろうか」
「あーい」
クラスにはだいぶ人が集まってきていた、黒板を見ると番号順で座るようにとの指示と出席番号表が張られていたので、指定された席に座ることにする、予鈴まであと少しだしね。
仲の良かった鈴ちゃん、トーコも座っているのを発見したので、手を振って一緒のクラスになった喜びを表しておく。
予鈴が鳴り、立ち話をしていた生徒たちも座り始める・・・まぁ本鈴まで半数以上はそのまましゃべり続けるだろうけど。
本鈴のあと担任の大垣先生がはいってきた、小柄なかわいい系の美人でイメージとしてはリスかな。
「別の教室に来てる人はいませんねー」
出席を取った後
「はいはい、それではこの後講堂で始業式です、式が終わったらこの教室に集合」
「迷わないように気をつけてね」
私たち2年生が迷うわけが無いよね・・・、授業も含めて初めて話を聞く先生だけど、なかなか楽しい先生みたいだ。
始業式はまぁご想像どおりという感じで眠気を抑えるのに必死だった、ちなみに入学式は先日新入生と在校生代表で終わっている。
教室に戻ってくると、早速、新学年恒例の自己紹介を先生が指示してきた。
あー、苦手なんだよなぁ目立ちたくないし・・・、どきどきしながら他の人の紹介を聞いていると、とうとう自分の番が回ってくる、目の端でトーコが握りこぶしを作ってがんばれと励ましてくれるのが映ったけど、やっぱり自分には無理です、気の利いたことでも言えればとも思わないこともないけどね。
「水沢理麻です、よろしくお願いします」