表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

一日一話

05/01 恋愛談義

作者: 熊と塩

 熟語の構成には大きく分けて三つある。

 一つ目は、<多大><暗闇>の様に、殆ど同じ意味の字を二つ合わせて強調するもの。これをAとしよう。

 二つ目は、<大小><明暗>の様に、真逆の意味の字を二つ合わせて両面を表すもの。これをBとする。

 三つ目は、<膨大><暗黒>の様に、崩せば一つの字が修飾語としてもう一方を補足するもの。これをCとする。


 では、<恋愛>はこのうちのどれに当てはまるだろう?

 Aだとするなら、恋と愛は同じ意味だという事になる。だけれど、親子恋とか兄弟恋とか言い換えるともの凄く奇妙だし、逆に、愛焦がれたり愛患ったりするのもやっぱり違和感だ。

 ではBならどうだ。いや、恋と愛が真逆だと考える方が余程不自然だろう。

 じゃあ、Cなのか。「愛しい恋」とか「恋する愛」とかに崩せるのか。変だ。


 これは、困った。


 そもそも、<恋愛>は英語のLoveや仏語のAmourの訳語として作られた、造語だと聞いた事がある。造語なのだから熟語として不完全でも仕方無いじゃないか、と割り切る事も出来なくはない、が、どうしても気になる。

 だいたいから、「恋愛する」なんて訳したものを見た事がない。Love youやMon amourを「恋しいあなた」と訳しても、また何となく落ち着かない。「恋しい」程度なら、英語でDear、仏語ではちょっとしか変わらないがAmoureux、と別の語がある。

 夏目漱石がLoveを和訳するにあたって、「愛している」とストレートに言うのは日本人的な奥ゆかしさが無いからという理由で、「貴方と居ると月が綺麗ですね」と訳した、なんて逸話もある。最早<恋愛>自体無かった事にされている。


 一体何なんだ、<恋愛>って?

 こんなに曖昧で適当で、掴み所の無い熟語が他にあるか。俺はこの熟語について考える度に、酷く混乱するんだ。


 そんな話を君にすると、

「考えすぎ」

 と真顔で言われる。

「でも、何と言うか、みんな<恋愛><恋愛>言うけど、その言葉自体に疑問を持っちゃったから、もう喉に小骨が支えてる様な気分なんだよ」

 みんな<恋>と<愛>の違いに関する見解は持っているのに、<恋愛>に対して一切の疑問を抱かないというのが、不思議でならない。人間の感情として、似てるけど違うもの、という認識は同じだろうに、並べて置いておく事に異議を唱えないなんて、どうかしている。

「そんなの簡単な事じゃない?」

 と君は溜息を吐く。


「私は君を愛しているから毎日恋してるし、毎日恋しいと思うから君を愛してるんだよ」


「あ」

 脳細胞に電撃が走る様だった。

「ありがとう」

 純粋に嬉しい事を言われたので、お礼は言うものの、詐欺まがいの論証で納得させられてしまうのは、狐に抓まれた様な気分だ。

 つまり、

「恋愛なんてまやかし、って事か」

 言い切るか切らないかの内に、頭を叩かれた。

一日一話・第一日。

ずっとこんな調子でやるつもりはないが、明るく振る舞っていこうと思う。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ