05/01 恋愛談義
熟語の構成には大きく分けて三つある。
一つ目は、<多大><暗闇>の様に、殆ど同じ意味の字を二つ合わせて強調するもの。これをAとしよう。
二つ目は、<大小><明暗>の様に、真逆の意味の字を二つ合わせて両面を表すもの。これをBとする。
三つ目は、<膨大><暗黒>の様に、崩せば一つの字が修飾語としてもう一方を補足するもの。これをCとする。
では、<恋愛>はこのうちのどれに当てはまるだろう?
Aだとするなら、恋と愛は同じ意味だという事になる。だけれど、親子恋とか兄弟恋とか言い換えるともの凄く奇妙だし、逆に、愛焦がれたり愛患ったりするのもやっぱり違和感だ。
ではBならどうだ。いや、恋と愛が真逆だと考える方が余程不自然だろう。
じゃあ、Cなのか。「愛しい恋」とか「恋する愛」とかに崩せるのか。変だ。
これは、困った。
そもそも、<恋愛>は英語のLoveや仏語のAmourの訳語として作られた、造語だと聞いた事がある。造語なのだから熟語として不完全でも仕方無いじゃないか、と割り切る事も出来なくはない、が、どうしても気になる。
だいたいから、「恋愛する」なんて訳したものを見た事がない。Love youやMon amourを「恋しいあなた」と訳しても、また何となく落ち着かない。「恋しい」程度なら、英語でDear、仏語ではちょっとしか変わらないがAmoureux、と別の語がある。
夏目漱石がLoveを和訳するにあたって、「愛している」とストレートに言うのは日本人的な奥ゆかしさが無いからという理由で、「貴方と居ると月が綺麗ですね」と訳した、なんて逸話もある。最早<恋愛>自体無かった事にされている。
一体何なんだ、<恋愛>って?
こんなに曖昧で適当で、掴み所の無い熟語が他にあるか。俺はこの熟語について考える度に、酷く混乱するんだ。
そんな話を君にすると、
「考えすぎ」
と真顔で言われる。
「でも、何と言うか、みんな<恋愛><恋愛>言うけど、その言葉自体に疑問を持っちゃったから、もう喉に小骨が支えてる様な気分なんだよ」
みんな<恋>と<愛>の違いに関する見解は持っているのに、<恋愛>に対して一切の疑問を抱かないというのが、不思議でならない。人間の感情として、似てるけど違うもの、という認識は同じだろうに、並べて置いておく事に異議を唱えないなんて、どうかしている。
「そんなの簡単な事じゃない?」
と君は溜息を吐く。
「私は君を愛しているから毎日恋してるし、毎日恋しいと思うから君を愛してるんだよ」
「あ」
脳細胞に電撃が走る様だった。
「ありがとう」
純粋に嬉しい事を言われたので、お礼は言うものの、詐欺まがいの論証で納得させられてしまうのは、狐に抓まれた様な気分だ。
つまり、
「恋愛なんてまやかし、って事か」
言い切るか切らないかの内に、頭を叩かれた。
一日一話・第一日。
ずっとこんな調子でやるつもりはないが、明るく振る舞っていこうと思う。