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アインザッツさんを残して歩き出したあのあと、私たちはまず馬車でフェルマータまで戻った。
フェルマータではまだお祭りが続いていた。
四日間続くお祭りの三日目が終わった夜だった。
私たちはママさんの夕暮れ亭に泊めてもらい、次の日、ベルカント村へと向けて出発した。
シーズンのふたりとサフランは、そのままフェルマータに残った。四日目、最終日のお祭りを楽しむのだという。
私たちも一緒に楽しみたいところだったけど……。
「私は、マニスに護身オーブを持たせて天罰を与える役目を任せたものの、気になって仕方がなかった。その様子を察したガラナさんを筆頭に村の人がみんな、行ってやりなよ、と背中を押してくれたんだ。純粋にチェルミナとチュルリラを心配していると思ったのだろう。……私は彼らをも裏切ってしまったんだ……。戻ったら謝らなければいけないな」
寂しげな口調でお父さんは独白した。
「余計な心配をかけるだけだから、謝らなくていいと思うわ」
「そうだよ。私たちは、こうして一緒に帰るんだから。……ねっ?」
お姉ちゃんと私の言葉に、お父さんは目頭を熱くしているようだった。
とはいえ、留守をガラナさんたちに任せて出てきたみたいだから、あまり遅くなるわけにはいかないだろう。
そんなわけで、私たちは寄り道せずにベルカント村への家路を急ぐことになった。
村に戻ると、ガラナさんもカスタードさんもバラック先生もアンリエッタさんも、みんな笑顔で出迎えてくれた。
☆☆☆☆☆
『ありがとう ありがとう いつも想ってくれて
気づくことのできなかった 優しい温もり
ありがとう ありがとう いつも想ってくれて
今なら素直に言える ほんとにありがとう
これからはあなたの想いを抱えながら
強く生きていきます ありがとう』
私とお姉ちゃんの歌声が、ベルカント村の澄みきった青空に響き渡る。
ライブでは通常、私はひとりで、お姉ちゃんはバンドメンバーと四人で歌う。
でも、周りで聴いていた人からの口コミなのだろうか、噂が広まってしまったようで、アインザッツさんと別れる間際に歌ったあの聖歌を、たびたびリクエストされるようになっていた。
そんなとき、特別にこの曲だけは私とお姉ちゃんのふたりで歌うことにしていた。
チェルシーミルキーのメンバーが演奏してくれるメロディーに乗せ、ふたりの聖歌巫女の声が幻想的なハーモニーを奏でる。
鳥たちもその旋律に酔いしれ、美しいさえずりを重ねてくれているようだった。
観客のみなさんからは、空を突き破らんばかりの歓声と拍手の嵐が沸き起こり、教会の敷地に絶え間なく鳴り響いた。
「ふんっ! チュルリラが一緒に歌ってるにしては、結構よかったじゃない。ま、あたいらに比べたら、まだまだだけどっ!」
舞台袖に戻った私に、そんなちょっとトゲついた言葉を投げつけてきたのは、ツインテールを揺らしながら両手を腰に当てて偉そうにふんぞり返っているソルトだった。
その横では、シュガーとサフランが温かな笑顔で拍手を送ってくれている。
彼女たちは以前にも増して頻繁に、ベルカント村へと足を運ぶようになっていた。
訪ねてきてくれたときには飛び入りで聖歌も披露してくれて、この村の中でも彼女たちは結構な人気を集めている。
「……ソルトさんね、ほんとはこのあいだの件ですごく感動して、とても刺激になったみたいなんですよ」
サフランが私にそっと耳打ちして、そう教えてくれた。
なるほどね。それで、よく来てくれるようになったんだ。
素直じゃないのは相変わらずだけど、ソルトはソルトなりに頑張ってるんだな。
私も負けないようにしないと。
聖歌巫女として私はまだまだ未熟だけど、温かな家族と温かな仲間と温かな村の人たちに包まれて、今、とっても幸せだった。
そんな幸せな気持ちを、少しでも多くの人に感じてほしい。この気持ちを聖歌に乗せて届けたい。
離れてはいるけど、アインザッツさんもきっと私たちを応援してくれているはずだ。
だからこれからも、精いっぱい歌い続けよう。
私はそう心に誓っていた。
「ほら、チュルリラ。アンコールよ。最後も一緒に歌おうか!」
「……うん!」
私たちは再び舞台上へと舞い戻った。
お客さんたちの幸せ溢れる笑顔とともに繰り出される声援の波は、舞台上の私たちを圧倒するくらいに強く押し寄せてきていた。
私とお姉ちゃんは歌い出す。
今日も私たちの聖歌はお客さんたちの笑顔を乗せ、澄み渡った青空を飛び回る鳥のように響いていく。
そして、果てしない世界を奏でる旋律として、遙か遠い未来へ向かって広がり続けていった――。
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