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パチパチパチ。
アインザッツの拍手が響く。
「いや~、よかったよ。いい声だね~。私だけのものにしたいくらいだ」
いやらしい笑い声を漏らしながら、奴が椅子から立ち上がり、お姉ちゃんに近寄っていく。
思わず身を乗り出しそうになる私。
マニスが冷静にそれを止める。
「ふん、来ないでよ! あたしは全部知ってるんだからね!」
お姉ちゃんがアインザッツを睨みつけて罵声を浴びせる。
うわ、カッコいい!
ついつい、そんなふうに思ってしまったけど、状況を考えれば危険すぎる行為だ。
ハラハラしながらも、私は成り行きを見守る。
「もうこれで終わりよ!」
お姉ちゃんの言葉に、ザッと蒼いローブの男たちが身構える音が響いた。
「ダメ、お姉ちゃん!」
居ても立ってもいられず、私は飛び出していた。
それに続いて、マニスやソルトたちも部屋の中へと飛び込んでくる。
一蓮托生を決め込んでくれたようだ。
身構えていた男たちは突然の侵入者に驚きながらも、私たちのほうに向き直った。
十人近くの男たちから睨みつけられている現状。
足がガクガクと震える。
「チュルリラ……!? あ……あんた、なんでここに!?」
お姉ちゃんは驚いて大口を開けていた。
一瞬の間を置いて、男たちが一斉に動いた。私たち五人の侵入者を捕らえようとしているのだ!
それがわかっていても、私には反撃するどころか、身動きすることすらできなかった。
考えなしに飛び込んでしまった自分の浅はかさを呪った。
一緒に飛び込んでくれたマニスやソルトたちに対する罪悪感が重くのしかかってくる。
蒼いローブたちが、私たちを取り押さえようと飛びかかってきた。
その刹那、
「やめろ、お前たち!」
アインザッツの鋭い一喝が響き渡った。
☆☆☆☆☆
「しかし、アインザッツ様……」
私たちにつかみかかる体勢を崩さないまま、蒼いローブの男がアインザッツに反論を返す。
「口答えするな。お前たちは私の私設警備団なんだぞ!? だいたいいつもいつも、私の指示をちゃんと理解せずに、勝手な行動ばかりしているようじゃないか。文句があるなら、クビにするぞ!」
アインザッツの怒声に、なにか言いたそうな表情を浮かべてはいたものの、黙って私たちのそばから離れていく蒼いローブの男たち。
「驚かせてすまなかったね。さあ、こちらへ来なさい」
素直に従っていいものか判断に困り、私はお姉ちゃんに視線を送る。
こくり。
お姉ちゃんは黙って小さく頷いた。
大丈夫だよ、安心して。瞳がそう語りかけていた。
意を決し、再び豪華な椅子に腰を下ろしていたアインザッツの前に、私はゆっくりと歩み寄る。
マニスやソルトたちもそれに続く。
お姉ちゃんやキーマさんたちは、部屋の隅に下がって様子を見ているようだ。
「チュルリラ、キミも来てくれたんだね」
わずかに瞳を潤ませながら、アインザッツは優しげな口調でそう言った。
手下に命令して私を捕まえようとしていたくせに、この男はなにを言うのだろう。
怒りの念が湧き起こる。
でも……。
本当に心から、私に会えたことを喜んでいる。
アインザッツの瞳は、そんな澄んだ純粋な輝きを放っているようにも思えた。
これはいったい、どういうことなのだろう?
私は困惑を隠せない。
そんな私に向けて、アインザッツは優しい声で、こんな言葉を投げかけた。
「ようこそ、私の自慢の屋敷へ。涙が溢れてくるくらい嬉しくて温かい気分だ。よく来てくれたね、我が愛しの娘、チュルリラよ!」