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聖歌巫女(うたみこ)  作者: 沙φ亜竜
聖歌4 聖歌(うた)唄いの聖戦(ジハード)
25/38

-6-

 若干のハプニングはあったものの、結局シーズンも準決勝を勝ち上がり、今この決勝戦の舞台に立っている。

 広いライブホールが壊れてしまうのではないかと心配になるほど激しい声援の嵐の中、私とシーズンのふたりは決戦のときを迎えようとしていた。

 舞台の袖からは、マニスとサフランが緊張した面持ちで見守っている。

 実際に歌う私たちだけではなく、マネージャーである彼女たちにとっても戦いなのだ。


「ふん、あんたなんかには、ぜ~ったい負けないんだからねっ!」

「こっちこそ、負けないわ!」


 ソルトの挑発の言葉に、私も対抗する。

 対抗しながらも、その勝負を楽しんでいる私たち。

 おっとりした雰囲気ながらも、シュガーでさえ楽しさが全身から溢れ出ているように輝いて見えた。

 やがて、司会者さんの進行に合わせて私は舞台の袖に引っ込み、まずはシーズンのふたりが一曲目を歌い出した。



『しんしんと 降り積もる銀世界

 りんりんと 肌を刺す冷たさに


 あなたの温もりを 思い描きながら

 空を見上げ 舞い落ちる雪を眺めた』



 歌い出しから、しっとりとした雰囲気の曲。

 シーズンの明るいイメージとは少しミスマッチな印象が、新鮮な驚きを与える。


 歌詞も、ソルトが書いたとは思えない感じ。

 とはいえ、実は詞もシュガーが書いた、ということはないだろう。

 ソルトは自ら、自分で考えた歌詞じゃないと覚えられないって公言していたのだから。



『夏の日から待ち望んだ 夢時間

 さらさらの白を集め 持ち帰る


 暖炉の前に座り 笑顔浮かべて

 思いきり注ぐピンク イチゴシロップ』



 ……え? イチゴシロップ?


 穏やかに包み込むような曲調に酔いしれていた私を、一瞬にして現実に引き戻すそのフレーズ。

 彼女たちの歌は、そのままサビへと向かって流れゆく。



『ストロベリースノー 冬の贅沢

 温かな心が溶かすよ 胸に染み渡る冷たさ

 ストロベリースノー 夏の思い出

 奏でてくれる響き シャリシャリシャリ』



 雪を、食べちゃってるのね……。

 ああ……やっぱりソルトの詞だわ……。


 だけど、なんとなくホッとして、思わず微笑みが浮かんでしまう。

 なんだかんだと反発している私だけど、彼女たちの聖歌が大好きなのだ。


 ソルトの内面に潜む素直さ。シュガーの穏やかな優しさ。それらが詞や曲から溢れ出してくるようにすら思える。


 そんな思いを抱いているうちに、シーズンの曲は終わりを告げた。

 さあ、次は私の出番だ。



『あ~ 恋の色 私の心を染める

 あ~ 青い風 きらめく日差し


 そっと腕を組んで 歩く並木道

 文句も言わずに 微笑んでくれるあなた


 歩幅を合わせて さりげなく気遣う

 その温もりに包まれながら 私は祈る


 いつまでもこのまま 離れず歩きたい

 私の瞳にはもう あなたしか映らないから


 あ~ 温かな恋の色

 いつも私の心を染めてゆく

 あ~ そよ風舞う公園で

 優しい日差しに包まれたふたり

 初めての 口づけ』



 ちなみにこの聖歌の歌詞は実体験ではなくて、理想のデートを思い描いたものだ。

 ……ちょっと恥ずかしいけど。


 静かに聴き入ってくれているお客さんたちのほのかな笑顔に支えられ、私は気分よく一曲歌い終えることができた。

 やっぱり、歌い終わったあとというのは、清々しい気持ちでいっぱいになる。

 大きくお辞儀をして舞台袖に戻る私の背中を、まだまだ鳴り止まない大音響の声援が見送ってくれた。


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