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乗合馬車に揺られ、またお尻を痛くしながら、私とマニスはベルカント村へと戻ってきた。
出発が少し遅い時間の馬車だったため、村に着く頃にはすっかり日も落ち、辺りは宵闇に包まれていた。
馬車ターミナルで地面に足を着くと、疲れからか、私はふらついてしまった。
「うゆ~、チュルリラちゃん、大丈夫~?」
心配して寄り添ってくれたマニスの肩を借りて、どうにか倒れずに堪えた。
いつもいつも私はこうして、年下のマニスに支えてもらっている。
もうちょっとしっかりしないと。そうは思っているものの、なかなか変わることはできないもので……。
「まったく、チュルリラちゃんは私がいないとダメなんだから~」
マニスとしては、こうやってお姉さんぶるのも嬉しいみたいだった。そんな彼女の様子を見ていると、このままでもいいかな、なんて思えてしまう。
聖歌巫女のマネージャーという役目は、マニスの性格にピッタリ合っていると言えるだろう。
でも、だからといって頼りきりになるわけにはいかない。
お互いに手と手を取り合い、頑張っていかなきゃ。夜風にそよぐマニスの髪の毛を間近に感じながら、私はそう考えていた。
☆☆☆☆☆
「ただいま~!」
「チュルリラ、お帰り」
教会に戻ると、お父さんがいつもの優しい笑顔で出迎えてくれた。
「ちょっと遅かったじゃない。乗合馬車の到着が遅れたのかしら?」
お父さんのあとに続いて少しトゲのある口調で言葉を投げかけてきたのは、チェルミナお姉ちゃんだった。
「うふふ、チェルったら、チュルリラちゃんのことが心配で心配でしょうがなかったんですわ」
「声が聞こえたと思った途端、目にも留まらぬスピードで飛び出していったもんな!」
「チェルりん、妹さん思いだわあ」
さらに後ろから、チェルシーミルキーのメンバーたちも姿を現す。
「なっ!? あ……あんたたち、なに勝手なこと言ってんのよ! 私は、べつに……!」
真っ赤になりながら反論しているお姉ちゃん。いつもどおりの光景だった。
それにしても、キーマさんも、シーさんも、ミルさんも、ほとんど教会に入り浸っているように思うのは、私の気のせいだろうか。
「それで、巡業はどうだったんだい? おっと、ゆっくり腰を落ち着けてからのほうがいいかな。すぐにスープとパンを用意するから、食堂で待っていなさい。チェルミナは運ぶのを手伝ってくれ」
「はいはい、わかってるわよ」
しぶしぶといった表情で、お姉ちゃんがお父さんに続いて台所へと戻っていく。
どうやら私たちの帰ってくる時間に合わせて、夕飯の準備をしてくれていたようだ。
「それじゃあ、ウチらは食堂に行こお」
「そうですわね」
「ようやくメシにありつけるぜ!」
ミルさん、キーマさん、シーさんの三人が、私たちを先導するかのように食堂へと向かう。
普段と変わらぬ明るい雰囲気に、私とマニスは思わず顔を見合わせて笑い声をこぼしていた。
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食事をしながら、私は巡業の報告をする。
酒場でのちょっとしたトラブルはあったものの、巡業としては成功だったと思う。
そう言うと、お父さんは主に酒場でのトラブルについて事細かな説明を求めてきた。
やっぱり心配してくれているんだ。それは、ひしひしと感じられた。
だけど、あまり細かく話すと余計な心配をさせてしまいかねない。
実際、バターピーさんが助けてくれて、大したことには発展しなかったのだから。
そんなふうに考えて言葉を濁すと、お父さんはそのことに対してさらに突っかかってきた。
「どうして言えないんだ? なにかあったのか? まさか、男か!?」
必死にまくし立てるお父さん。さすがに、心配しすぎだよ。
「まったく。いつも言ってるけど、お父さんって頭が固すぎなんだってば。チュルリラだっていい歳なんだから、男のひとりやふたり……」
ちょ……ちょっとお姉ちゃん、そんな言い方をしたら余計に……。
焦る私の予感は見事に的中。
怒鳴りつけるほどの勢いで、お父さんが質問攻めを開始する。
結局、巡業中の出来事について、ひとつひとつ詳細な説明を求められる羽目になってしまった。