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十字架の行方

私は、この道30年の警備員だ。


実は、キミに相談したいことがあってだな・・・いいかね?


私の会社はご存じの通り派遣会社に似ている。


「この道30年の警備員」といっても、あるときはちゃらちゃらしたバンドのライブの警備

またあるときは、お高いものが集まっている美術館。


私は、この30年で様々な場所で警備をしていた。


・・・先月、私はあるデパートの駐車場の警備を任された。

車を誘導したり、デパート内の客の案内をしたり、容易い仕事だった。


ところが、そのデパートで警備をしてから2週間。事件は起こった。

・・・なんだか、私が探偵でキミに推理を聞かせてるような気分になってきたよ。




おっと、失礼。話が逸れてしまったな。



その日、私はいつものように駐車場で警備をしていたんだが



ある、一人の5歳くらいの男の子がさっきから20分も駐車上をうろうろしていたんだ。



警備員の勘というやつか・・・私はこの子がすぐに迷子だとわかったよ。

何度も車を探しているし、とても悲しそうな顔をしていたからね。



「迷子のお客様がいらっしゃった場合、地下駐車場のエレベータを使い1階に上り、サービスカウンターに預ける」というマニュアルだったので、


私はその子供に声をかけたんだ




「ぼく。もしかして迷子なのかな?」

私は精一杯の笑顔でその子に話しかけたつもりなのだが


その子の顔はみるみるうちに青ざめていってだね

おびえた顔をしながら首をぶんぶん振って「違います!」と声を張り上げたんだ。



「でも僕。さっきからこの・・・えー、駐車場。ずぅーっとうろうろしていただろう?迷子だよね?」

あと10分で休憩時間に入るということもあり、私は早くその子をサービスカウンターに預けたかった



だが、その子は何度聞いても「迷子じゃない」と首を横に振るだけだった。

いよいよいらついてきた私は「じゃあ、なんでお父さんやお母さんが一緒じゃないのかな?まさか一人で来た訳じゃないだろう?確かにはぐれてしまったのは僕の責任かもしれないけど。はぐれてしまったものははぐれてしまったもの。過去はふり返らないで、おとなしく迷子を認めようよ?僕、男だろう?」

と、たたみかけた。


・・・ふっ、今思い返すとこんなちっこい男の子になんて言い方だと反省してしまうよ。


すると観念したのか「わかりました」と小さくうなだれ、私について行くそぶりを見せた。

だがそのとき、私にこう聞いたのだ


「殴らない?」・・・とね


私がどうして?と聞くと「だって、迷子になっちゃったから」と涙をぼろぼろこぼし始めた。



そのとき私は、子供っつーもんはどうしてすぐ泣くんだと呆れていた。


だから詳しくは聞かず「あー殴らないから、涙拭いて。ほら、サービスカウンターでお母さんを呼び出そう」とその子を半強制的に引っ張った。




サービスカウンターについても、その子はまだ泣いていた。

カウンターの店員に事情を話すと、その子に名前を聞き、放送をしてくれた



〈ピーンポーンパーンポーン〉

「・・・結城ゆうき 勇気ゆうきくんのお母さん。結城 勇気くんのお母さん。勇気くんがお待ちです。1階サービスカウンターまでお越しください」

〈ピーンポーンパーンポーン〉


結城 勇気という名前に私は笑いそうになってしまったよ。

名字と名前をかけたつもりなんだが、まあつまらない。

キミもそう思うだろう?



それから10分後、母親はやってきた。

母親は勇気君を抱きしめると「迷子にさせてしまってごめんなさい」と涙を流した。

それから涙をぬぐって「本当に、ご迷惑をおかけしました」と丁寧にお辞儀をして

勇気くんと手をつないで帰って行った。

私は忘れないよ、そのとき勇気君がとても怯えた顔をしていたのを





・・・殺されたんだよ、勇気君。その数時間後

死因は、内臓の破裂による失血死

・・・原因は母親の家庭内暴力だそうだ。


前々から、母親の暴力は盛んにあったらしい。

今思い起こせば、そういえば勇気君の腕には数カ所あざがあった。

どうして早くに気づいてあげられなかったのか・・・



しかもだ。警察の取り調べに母親はこう答えているのだそうだ。

「デパートで迷子になって、挙げ句の果てに放送で私の名前を呼び、私に恥をかかせたから、腹を蹴ったらあっけなく死んだ」と・・・



・・・キミに相談したいこと・・・だいたい想像がついただろう?



・・・そうだ。私が勇気君をサービスカウンターになんか連れて行かなければ

彼は死なずにすんだのだよ。



私は一体、どうしたらいいと思う?



一生、この十字架を背負って生きていかなければならんのか?

・・・今日、会社に辞職を命じられたよ。

どっかのゴシップ雑誌がこのことをとりあげ、私をバッシングしたらしい。


私はいまや、定年寸前にリストラされたただのおじいさんというわけさ。


なあ、ゆうじんよ。

私はこれからどうすればいい?


一生この『罪』を背負うべきか?

それとも、何事もなかったかのように、すべてを忘れてのんびり年金暮らしをするべきか?



なあ、我が友よ・・・

私の十字架じんせいは、どこへゆけばいい・・・!

コナンの映画「漆黒の追跡者」を見て思いついたネタです。

あの、ベルモットが警備員に向かって「この子迷子みたいなんですけど」ってやつ。笑


子供としては、自分が迷子だって、認めたくないですもんね。

必死に否定してしまうのは当然だと思います。


だからって、この警備員はなんの罪も無いまま生きていて良いのでしょうか

ってな感じの小説でした、では。

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