銃撃戦の末に
こういうとき、女は恨めしく、羨ましい。
目の前の女子は、ただでさえ醜い顔をさらに歪ませ、その目から清い水滴からぼろぼろこぼれている。
女子のまわりにはクラスの大半の女子が囲んでいる。
大丈夫、とか、最低だよね、とかいろんな声が聞こえてくる。
それは少なくとも俺を援護するような声ではないことは確かだ。
たった一言。
たった一言、その女につきだしてやっただけなのに。
その刃は鋭くその女に刺さり、魂を持って行ったようだ。
・・・いつも気にくわない、いや、“気にくわない”くらいでは済まないほど苛立たしい女だった。
席が隣ということだけでいちいち気安く話掛けてくる。
――――宿題は終わったの?あんたっていつものろまだからどーせ終わってないんでしょ。
――――うはっ!字だけでなく絵も下手なんだっ。うけるんですけど。
いつも俺に向かって発してくるのは言葉でも会話でも独り言でもない。
マシンガンだ。
そのマシンガンをいつも俺は受け止めなければならなかった。
さもなくば醜い女はもう片方に担いでいるバズーカを撃ち込んでくる。
――――ねぇ、聞いてんのかよ。あんたに向かって話掛けてるんだけど。耳聞こえねーのかよ。耳鼻科行けよ。
マシンガンをいつも受け取れるわけがなく、1日のうち5,6回はバズーカを撃ち込まれる。
それでも俺は、自分の手の中にある刃を女に向けることは出来なかった。
この席になる前のこと。つまり席替えをする前、その女の隣になった(なってしまった)友人が、マシンガンとバズーカの攻撃に耐えきれずに
「うぜーんだよブス。いちいち話掛けてくんな」
・・・刃を振りかざしてしまった。
偶然その現場を見ていた俺は突然教室に響き渡った、がたん、と椅子が倒れる音とぎゃあぎゃあと怪獣が吠えているかのような泣き声に鳥肌が立つ。もちろん、悪い意味で。
この女は、アルコールいらずの泣き上戸だった。
どうしたの、と心配するフリをして好奇心丸出しで駆けつける女子達にその女は、最後に爆弾を友人に投げつけた。
「紙村が、いじめるの」
高校1年にもなってそれはないだろうと思ったが、泣きじゃくったその女の言葉は他の女子を納得させるには十分だった。
紙村―――――俺の友人の紙村 芳樹は、今でもクラスの全女子を敵に回している
紙村くんって、女の子を泣かすの?
なんかね、自分に嫌な事があるとまわりの女子にあたるんだって
とんでもない罵詈雑言を浴びせるんだって
紙村くんは、悪い人なの
そうよ、紙村くんは悪い人なの。いけない人なのよ。
女子の伝言ゲームは本当に恐ろしい。
普段は温厚で優しい紙村は、今ではクラスでヤクザのような存在になって避けられている。(もちろん女子だけに)
だから、席替えでこの女の隣になったとき、クラス中の男子から慰められた
ある程度慰めの言葉をもらった後、最後に紙村にこう言われたのを今思い出した。
――――絶対に、ブスノに歯向かうようなことを言うなよ。
そんな忠告をすっかり忘れ、臼野 茜――――通称『ブスノ』は俺の言葉を受けわんわんと泣いている。
なんて言い返したのかは、もうこの泣き声に埋もれて忘れてしまった。
おそらく紙村と同じようなことを言ったのだと思う。
――――星河ってさ、めっちゃブサイクだよね。
――――顔も性格も醜いおまえに言われたくないよ。
さて。
もう言ってしまったものは仕方ない。
次に備えるしかない。
次に来る爆弾。
女子たちの目を一斉に嫌悪を目にするその爆弾を防ぐには。
一体どうしたものだろう。
なあ、紙村。
いっそ俺は、自爆したほうがいいのだろうか―――――
いますよね、そういう女子。
皆さんの周りにはいらっしゃいますか?笑
要はもう、触らぬ神に祟りなしなんですよね・・・
臼野はきっと、男子と仲良くしたくて、その方法を間違えてるだけなんです。
もし皆さんの周りにいらっしゃったら、それを理解してあげてくださいね。