STARRY START
ベランダに出ると、満天の星空。
ああ、私はきっとこの幸福を永遠に望んでいるのだ。
・・・
高校に入学して、私はすぐに天文部を探し、入部希望を申し込んだ。
もともと、この高校に入ったのは天文部の活動が活発に行われていることを知ったからだ。
おばあちゃんは「星子ちゃんの成績ならもっと良い高校にゆけるだろうに」と愚痴をこぼしていたが。
私が星に惹かれたのは、両親の死がきっかけだった。
私が中学に入ってすぐに、“交通事故”というものが二人を知らない世界に連れていった。
せめて、どちらか残して欲しかったのにと何度、神さまを恨んだことか。
母は元ハープ演奏者で、星が大好きで『星座案内人』なるちょっと胡散臭い資格ももっていた。
父は天文学者で、母のハープの演奏に惚れて、猛アタックして結婚にこじつけたそうだ。
二人は、私にどうしても星を好きになって欲しかったらしく子供の頃はいつも星座に関わるギリシャ神話を、『ももたろう』の代わりに読み聞かせたり、
夏の深夜「ペルセウス座流星群が見られるから」と、寝ぼけた私を引きずって山奥に行った(彼らはそれをあろうことか『キャンプ』と呼んだ)。
子供のころの私は、『束縛』という言葉が最も嫌いで、自由奔放な人間だったので
親が縛り付ける“天体”が、私は嫌いにさえなっていた。
彼らもそれを悟ったのか、私が小学6年生になるとあまり星について語らなくなった。
しかし、小学生活最後の夏休み。
母はある夜、私がなかなか眠れないとベランダに私を連れ出し、輝く星を美しい目で眺めながらこう囁く。
「ねぇ、しょうちゃん。見て。星がたくさん見えるでしょう?あの星の一つ一つは生きてるのよ。もちろん、私たち人間みたいに息をしたり歩いたりはしないわ。でもね、星々はお互いに会話ができるの。」
目線を星から私にうつし、ぎゅっと私を抱きしめながら乙女は言う。
「見て、あそこに大きな星があるでしょう?あの星と、それからそれのちょっと右下にも大きな星があるわね。それからそれに一直線に左にいくと見える星、この3つの星を繋げるとどうなるかしら?」
母の言われた通り3つの星を目をこらしてみると、ある図形が浮かび上がる。
「・・・三角形になる」
「そうね。三角形!三角形は人間が作ったっていうのはわかるわよね?」
「・・・うん」
「ね?星もね、お互いに“会話”をして三角形を作れるのよ。星座だってそうよ。あそこに見える蠍座だって、星々が作り上げた“ダイアローグ”なのよ?ふふ、『ダイアローグ』って表現は貴女にはまだ早かったかしらね?」
『星座は星々の会話集』なんて、考えたこともなかったから、そのときの母の言葉は今でも鮮明に覚えている。
その三角形を見ていると、天体を嫌う気持ちなんて、すぐに消えてしまった。
そんな母と、その母を愛した父が、いっぺんになくなってしまった。
まるで、今まで私が星を嫌っていたことへの報復かのごとく。
だから『星を愛する』ことは、『両親を愛する』ことなのだと、私は悟った。
残念ながら中学校に天文部はなかったので、私は学校から帰るとすぐに望遠鏡をベランダにセットして、天体観測の準備を始め、毎日のように星を見ていた。
あんまりに星ばかりみて、勉強を怠るので、おばあちゃんに望遠鏡を壊されかけたこともあった。
(実際私は頭はよく、勉強などしなくてもテストで良い点数はとれていた)
そして、天文部が有名な高校に、私は入学した。
明日が、初めての部活になる(最後に天文部に参加したのは部活見学の時だった)。
私は別に、将来ハープ奏者になろうとか、天文学者になろうとかは思わない。
ただ、両親が愛していたこの星々を、私も愛でたくなっただけだ。
こうして私は、今日もベランダから見える満天の星を見つめる。
私はずっと、この星を見ていたい。
ああ、私はきっとこの幸福を永遠に望んでいるのだ。
星に惹かれた星子さんのお話。
ってか英単語のタイトルってテキトー集では初めてなんですよね。笑