重ね技
「大丈夫、貴方に幸運はかならず訪れますわ。」
・・・大抵の客にこの台詞を吐けば、相手は喜んで大金を渡してくれる。
占い師とは、なんて楽な職業なのだろう。
A市のはずれにこの占い館を建てたのは3年ほど前だった。
別に、理由などなかった。
ただ、他人の不幸話を聞いて「かわいそうに」と同情の言葉をかけ―
心の中でほくそ笑みたかったのだ。
A市は狭い土地のわりに人口が多く、そこに占い館を建てると
「あそこの占い師は当たると評判」と、根も葉もない噂がすぐに出てきてくれる。
おかげでいまでは、館の隣に一軒家を建てられるほど裕福になれた。
さっき来た客は「同棲していた彼氏に浮気され、自分の通帳など金目になるものを全て盗まれ逃げられた」と泣きながら語ってくれた。
私は何度も慰めのことばをかけ、先ほどいった“幸運は訪れる発言”を行うと、みるみる彼女の表情があかるくなり
「ありがとうございました、先生に救われました」と、にこにこしながら50万円置いてくれる。
「青い花瓶を買ってそこに赤いチューリップを植えると幸運が訪れる」くらいなら、私がとっくに実践している。
もらったばかりの50万円を指でいじってると、また客が来た。
背が高く、スタイルも良く、黒髪が似合う美人・・・女性だった。
どこかで見たことあるような気もしたが・・・忘れた。
「ようこそ、占い館『ヨーダ・ラーホ』へ。・・・あら、何かお悩みな顔ね」
私はいつも客に言っている台詞をそっくりそのままその女性に言った。
だいたい、A市の(またはここにくる)女性は
『ヨーダ・ラーホ』を逆さまに読むと「ホラだよ」になることに気づいていないのだろうか?
「ええ・・・実は、ある詐欺に騙されましてね」
眉間に皺をよせ、悲しそうな顔を作った彼女は神妙な面持ちでそう語った。
「そう・・・じゃあこの私に話してみなさい。ゆっくりと、最初から最後まで」
「はい・・・私、以前ある市で占い師をしていたんです。といっても、本当に占いが出来るというわけではなく、いつも『貴方は救われます』と言ってるだけの占い師だったんです。ようはペテン師です。そんなペテン師でも信じる人はやっぱり信じて、ある程度のお金は貯まるようになりました。このお金で占いをしている場所の近くに家でも建てようかと想ってた矢先、私は顔を変えられました。意味わかりますよね?深夜の路上で襲われて気がついたら知らない家にいて、鏡を覗くと自分じゃない私がうつってるんです。整形されてしまったのです。寝ている間に整形なんて無理―と思われるかもしれませんが、目の角度や頬肉を削るだけで人というのは大幅に変わってしまうものなのですね。きっと私の財産を狙っての犯行なのでしょう。きっと私を整形した犯人は“占い師の顔”に自分を整形させたはずです。本当に怖いです、なんて恐ろしいのでしょう。あら、貴方。どこかでお会いしませんでした?何処かで見たことある顔なんだけど・・・」
どうやら「幸福になれます」だけでは帰ってくれそうにない客だ。
私は後ろにある棚の奥から毒薬をとりだしお茶にいれ、その女性に差し出した。
さて、どこに埋めようか・・・
今日の山羊座のラッキースポットはなんだったかしら...
嘘に嘘を重ねてみたよ。